第70章 68.
私達のヘリは他のヒーローが乗らないらしい。
ただ黙って、皆の背を見送る。他のヒーロー達は別のヘリに乗り込んでいく。
それを私は見ていた、風でめくれないように手で精一杯押さえて。だって、コートの下は裸だしね、臓器は見られても素肌は見られたくないでしょう。
見送った後はゾンビマンが先に乗り、手を引いて乗り込む。私はそんなゾンビマンの隣に座った。
髪留めも無く、自由行動する髪が風に流れる。ババババ、とうるさいヘリの中、地面が遠くなっていくのを見た。どこか、心の奥が寂しいのはこのオレンジの領域が増えていく、夕日のせいだろうか?
小さくなっていく民家、ビル、木々。
じっと黙って眺めていると沈黙を破ったのは隣のゾンビマンだった。
──少し、そわそわとしている。
「折角のプロポーズを決めようと服装キメて、待ち合わせ場所に来るまでに恋人を攫われた挙げ句にその恋人は敵に食われ、傷心の恋人に気の利いた事も言えない男はお嫌いか?」
何、その言い方は。自虐も良い所だ、と私も言い返そうと口を開いた。
『おそらくは記念日にでもなるだろうってデートにしっかりとお洒落して、待ち合わせ場所に辿り着く前に攫われて、敵地で服も体も無くして…そんな迷惑掛ける女は好き?』
互いに黙る。ただ黙ったままに、ゾンビマンは隣に座る私をギュッと力を込めて抱きしめて、そんな彼に私は抱きついた。
「ふっ…何だよ、ソレ」
『誰かさんの言い回しを返しただけなんだけれど?』
衣服が少ない分、ゾンビマンのそんなに高くない熱が伝わってくる。
「俺は好きだぜ、ハルカだからな」
『私も。あんたらしいってか、…ふふ、私には66号しかいないから』
目の前の首筋にほんのりと煙草の匂いが染み付いている。ワイシャツを着る所がいつもよりちょっと珍しいな、なんて思いながら少しだけ抱きしめる力を緩める。それに合わせてゾンビマンも少しだけ力を緩めて、お互いに顔を見合った。
「俺と結婚してくれ」