第68章 66.
私はこんな状態でも意識があるんだ……、とただの傷が再生する身体ではなく、不死である事を身を以て理解した。出血量にしろ、臓器の損傷にしろ普通なら死んでる。心臓を破裂させてこうも生きている人間なんていない…はず…。
バチ、と悪あがきするように雷神の力を放ってもたったの数体が死んで、また喜ばれて後ろに控えている腹を空かせた怪人が食べに来る。
僅かに身体を再生して、それを待ってから折角再生した身体を食われていく。彼らの母の願う通りのただ食べられる為の不死となっていた。
私は腹を空かせた彼らの夢の永久機関なんだろう。
私にとっては終わらない悪夢。限りのある再生、消耗戦。痛みでか、絶望でか涙が溢れる。
何度繰り返した?5回?6回?10回は繰り返した?それとも20回は繰り返せた?溺れそうな痛みに私は溺れてしまい、もう…精神が限界だった。
抵抗が無理だ。
再生に力を割り振っていて、能力に回せない。静電気程度じゃちょっとビクつくくらいでゆっくりとした動作で普通に食らっている。美味そうに咀嚼して、くっちゃくっちゃと筋肉も臓器も食べられていく。
一体、私何人分が彼らの胃袋に収まってるんだろうな、と思いながらただただ、客観的に自分が食べられていく光景を眺めていた。
『最後に66号に逢いたかったな、』
声帯も無い。声になんて出せなかった。すかすかと空気が唇から漏れただけで、口の中の血液が舌に纏わり付いてにちゃにちゃと音がするくらいだった。ため息を吐こうにも、肺も横隔膜もない。今更助けてなんて叫べない。
生理的欲求を満たすものがなく、消耗戦な為に再生がかなり遅くなっている。ゆっくり再生しても食われているから、減りが速い…肉体が保たない。
死ぬしかないか。きちんとしたデートも、プロポーズもやり残したことがたくさんあった。
人は死ぬ時に走馬灯を見るという。
…見られるかな?せめてクソッタレな人生の中にも数ヶ月の幸せを振り返りたい。
「そろそろ頭食べよう。おこるママもう居ない」
「ヤッタ、脳味噌」
──一斉に向く赤い瞳。
死んだ人間、最期まで機能するのは聴力なんだって。
やけに騒がしい、と感じながら自分の命が消えるその時を待つ。
くちゃくちゃと咀嚼する音と針が当たってザワザワ言う音の中に拙くない、人間の声。
ハルカという名を呼ぶ声。
浮遊感と暖かさに私は目を開けた。