第66章 64.
「我らハリモグラ一族の長男を殺したのはお前だな」
さわさわと風に揺れる草のように、針のような毛を鳴らして私の周りに集まる、その一族の子孫達。
上から見下ろす親玉は私の身体を頭から足まで見て口元をニヤつかせる。ハリモグラと言いながらも口の形状はネズミよりも犬などに近い。
「おや、失った箇所を再生するのか?これはこれは…わが一族には都合が良い!」
シュウ、と右手が今完治した。左はもう少し、足は多分まだだ。
一番の損傷の激しい、臓器が優先的に再生しているみたい。
「夫をこの前ヒーロー共に殺され、狩りにも行けなかったのだ。お前みたいな、"肉を生やす永久機関"は最高の食料じゃないか!ここの配給では我らは飢える一方…、人間一匹でも分け合えばと思った所で、私達に運が回ってきたようだな」
「まま、ハヤク食ベタイ」
「のうみそがほしい」
「にく、にく、にく」
拙い言葉で口々に食事を催促する小さな個体。横たわる私にははっきりとは分からないけれど、高さは大きいもので1メートル、小さなもので5、60センチくらい。
幼体の数は分からない。立てれば分かるけれども今は地面と仲良しこよし、痛みと負傷が立たせてくれそうもない。
「脳はまだ食べてはいけない、その他の肉を少しずつ食べていきなさい」
「ワーイ!」
「たべる、たべる」
痛みに溺れそうになりながらも力を振り絞る。発信機や端末は無いし、持ってる携帯も圏外。この空間に来た時には、掘り進んできた穴は後ろ足で固めたようで、僅かな隙間がここから見えるだけ。
助けなんて来ないでしょう。呼んでもないし、叫んでも届かない。だったらここで不意討ちで数を減らしてから戦えば良い。ひとりで戦うのには慣れているから、きっと平気なはず。
幸い、あの隙間から脱出すれば上の階層にも出られるだろうし。
……そう、この圧倒的絶望の状況をどうにか出来ると考えなければ、私が終わってしまいそうだから。
身体に纏わせる雷神の力。周りの個体と、親玉の口内目掛けてバチン、と一発大きい放電をした。