第66章 64.
『ぐぇっっ、』
腹に突き刺さる犬歯。先程噛まれた口より大きく、もう一方の犬歯が肋骨の間から肺に突き刺さったようだ。水の敵に打ち抜かれたのとは違う、突き刺さったままの鋭い痛み、傷が脳の錯覚で熱く感じる。
呼吸がし辛い、吸うのが大変で肺に溜まって来ているであろう血液を吐き出そうとしたらコキ、と胸のあたりに嫌な音がした。
…折れたな、そう思いながら眼前の大きな、光る赤い目を睨む。
折角のライトグレーのワンピースは血でベトつき穴も開けられ、背中から土が当たる。
このでかいやつは器用に左右の前足でほじくって進んでいる。解された土塊とはいっても、当たり続けるのは痛いんだけれど。
痛い。
いたい、いたい…。
胸も腹も、背中も再生中だった右手も。小石や岩、時に前足で手足の先端からどんどん削れて全身…どこもかしこも痛い。
それでも諦めずに意識を保たないと。貰ったショルダーバッグは襲われた時か、穴を掘り進めている時か分からないけど、途中で落としたみたいだ。まだレーションの在庫、あったのに。
体力の補充が出来ないという事は肉体再生速度が落ちるって事。能力も使うに配分を考えないと…。
食事は出来ない。そこで手軽な睡眠の本能を選べば本当の眠りが待っているかもしれない。
ザクザクと慣れたように土の中を進む。
何となく察した、こいつがアジトの通路を作ったんだろうって。この親玉ってのを先に駆逐すべき事なんだろう。あの場では武器もなく、場所も…分が悪すぎた。
ただ、痛みで感覚が分からない私には今重力がどこにあるかが分からない。直下掘りや斜め下に掘っていた所で私が攻撃してこいつを倒したとしよう、そしたら私は出られないだろうね。
『ゴブ、』
肺に溜まった血を吐き出すと目の前の大きな顔に掛かって、数回瞬きをし少し力を強められる。
ゴキ、と更に折れるような音、これ以上は無理無理、弱めて欲しい。睡魔とかじゃなく普通に気絶しそう。気合だけで起きている。
ガリガリザクザク掘っていた音も、ボコ、という最後の音を出して明るい空間に出る。
明るいというか電球がぶら下がって…広いドーム状の空間。周りには私が最初に倒した子供タイプよりももう少し小さいのがうじゃうじゃいた。
その空間から数歩進み、地べたに転がすように落とされる。
早速胸や腹、四肢から血と蒸気を出して再生が始まる。