第63章 61.
「風雷暴!」
右手、肘を出すように怪人側に突き出すと、そこを狙って噛み付く。口幅は手首から肘で丁度だったらしく、うまく私の腕に食らいついたようだ。
噛みつかれる直前の鋭い牙。唾液が上下に伸び、暖かくも生臭い息を理解した時には肉に牙が突き刺さる。
『…っ』
左手でショルダーバッグの柄を引き出す。
後ろから金属バットが飛び出し、目の目の針を引っ込めてツルッとした、今はワラジムシのような見た目の怪人を殴りつけた。
「オラァ!」
ガンッ!と金属の音。私の腕からはブツ、ブチという筋組織の千切れていく音と、生暖かい血液が垂れ流されていく。
硬い骨に当たる犬歯がゴリ、と噛み切ろうとしている。冷静にその様子を頭で理解はしているけれどもちろん痛い。激痛に全身が満たされてしまったら発狂してしまいそう。
ゾンビマンは良く…こんな痛みで発狂しないなぁ、私は痛くて、この痛みから早く逃れたくて仕方ないよ…と左手に握りしめた刺身包丁で真っ赤な眼の前の眼球を力いっぱいに突き刺した。
『離せ、このっ…!』
ぶちゅっ、と血と眼球に詰まったゲル状の体液が弾け飛ぶ。
「ぐぎゃああああぁぁあっ!!」
開かれた口に、私の腕が解放された。
よし、その口の中に思いっきりぶち込んでやろう。
そう思って、金属バットに、刺身包丁を手放した手で童帝君の居る方を指した。
『口にぶち込む、童帝君の所に避難!』
「おうよ!」
即、痛みで暴れるその開いた口に左で雷神の力を撃ち込んだ。