第63章 61.
「なるべく通路を崩さないようにお願いしますね!」
『……敵の抵抗にもよるかも』
片手を前にやり目を凝らす。点在する裸電球、奥の方で僅かに揺れる明かり。
マップに点在するヒーローはこの眼の前の通路には居ない。だからこそ。
確実に居る場所に向かい、私の体表から腕を伝って眩い雷槌が襲いかかる。薄暗いその場所には大きな…毛深い四足のものが居た。
ハリネズミ、ヤマアラシ…といったモチーフだろうか?体を揺らし、毛先に私の放った攻撃が伝っている。くすぐったそうに激しくもがいている。
『……なら、これか!』
風を渦巻き、押し放つ。硬そうなその毛を毟っていって本体にぶち当てれば良いでしょ。
雷神から風神に力を切り替えて攻撃された通路の中の怪人。
パキ、パキンッ、と硬い何かが折れていく音。
よし、そろそろ…、
「こっちに向かって来ます!」
「近くに来たら殴って援護してやる、気を抜かずに行け!」
ビラビラと被ったシートをはためかせ、後ろのふたりがサポートしている。
目の前からは高さは身長より明らかに大きい。だからか、その毛先が裸電球に擦れるんだろう、さっき明かりが揺れていたのはそのせいか。
こちらに向かってくるやつはまだ残る針を空気抵抗が無くなるように、ピタッと体に毛針を寝かせて来ている。
「一度脇に避けたほうが…っ」
ここは脇差で…、
腰に手をやるといつものが無い。見れば見慣れた服装でなく、そして武器もなく。そうだった、万全の体制ではなかった。
唯一の武器はショルダーバッグにはみ出た刺身包丁の柄。
迫りくる敵の位置はもう寸前。間に合わない…!