第54章 52.
……さん、…さん。
だれかが、なにかをいっている…。
ゆっくりと瞳を開ける。私が出掛けてそんなに時間が経ってなければ朝だというハズがここは暗い。
裸電球が明るくしている。風はなく、籠もった音に室内だと分かる。
ジメジメとしていて、僅かにカビ臭い。
最近も嗅いだことがあった、ような…?
「風雷暴のハルカさん!」
少年の声に驚き、覚醒する。
眠りに落ちる前、私は薬のようなツンとする匂いがした記憶がある。もしかして、これは眠らされたんじゃ。
呼びかける声の主に目を向けると、童帝くんが居た。
『童帝くん…?』
「あっ、良かった!気がついたんですね!?」
きょとん、と目を瞬き周囲を見渡す。
私の他に童帝君…と長めの前髪を真ん中に分けた青年が居る。
その青年をじっと見ると舌打ちをされた。
「なんだよ、俺の顔に何かついてるか?」
『…………』
ちょいちょい、と肩を童帝君がつつき、青年の方を見ながら言われた。
「金属バットさんですよ」
『えっ』
知ってる彼なら、髪を整髪料で固めていたはずだ。トレードマークの武器もない。声は聞き覚えがある。
そりゃあ分からないもんだ。とひとり納得した。
「何納得してんだよ、オメー。風雷暴のだってよ、童帝が気がつくまで俺もヒーローだって分かんなかったぞ」
「お洒落してますもんね、ゾンビマンとデートだったんじゃないですか?」
『ちょっと大事なデートだったんだけれどね、躓いたと思ったら袋を被せられて、多分薬で眠らせられたみたい。
童帝君もその様子だと通学中じゃないの?』
童帝君はいつも通りにも見える。
けれども私が朝、拉致されたというのなら学生たる童帝君はつまり、通学中だったのかもしれない。