第41章 39.
「ん、」
もぞっ、と動きがある。やばい、起こしちゃったかな。目の前の背中は反転して、開いた赤い瞳と目があった。
少しだけ互いに見つめ合う無言の時間。ゾンビマンは呆れたような顔をして、温かい手を私の頭に乗せた。
「おそようさん。ほぼ丸一日寝てたぜ、お前は」
なで、なで、とゆっくり雑に撫でて、少し眠そうなその呆れた顔は優しく笑った。
その顔を見れた事に安心して、ぶわっと涙が溢れ出す。
好きな人に再会出来た事。
その人の前で過去にあった出来事をほじくり返された事。
最後まで戦えなかった事。
寂しさが温められる事。
悔しさも苦しさも、喜びも何もかもを混ぜ込んだ涙。その胸に顔を埋め、肩を震わせて泣いた。
頭を撫でていたその片腕は背や肩を抱き、昨日思い切り抱きしめられたようにしっかりと私を引き寄せる。
『私はっ、最後まで戦えなかった…!』
「…ああ」
『昔、逃げ出したせいでっ、怪人化した奴に、辱めを受けた…っ、あいつのせいでっ私、私は…、私はあんなやつのせいで汚された!』
「いい、もう言うな…」
優しい声色で、私が言葉を吐き出す度に背中や肩を撫でなから答えてくれる。
『私、あんたにヒーロー止めさせて俺の側に居ろっていう、決めつけられた事は嫌い』
「そうか」
『嫌いだけどっ…66号の事は好き』
「ははっ、そいつは俺も知ってる」
もぞもぞと、もう片手の手でより強く私を抱きしめる。ゾンビマンの胸に当てていた手を私もその背に回す。一つの生命体のように互いにしっかりと抱きしめあった。