第39章 37.
両手首の無い彼女は震えて、よろけながら立ち上がった。
白い服を着ていたはずが真っ赤に染まっていた。服のあちこちが穴が空き、血に塗れた左側の乳首や下乳がペロンと見えている。心臓や肺など重要臓器を狙われたのだろうな。他の奴に見せたら欲情するやつもいるだろう。
下半身は下着だ。いつもよりも露出した脚を、服から垂れてきた吸いきれない血液が伝っていく。
ハンカチも袖も無い。俺の手でハルカの顔についた血を何度か撫でて少しでも綺麗な肌が見えるように拭う。血よりも涙は暖かかった。
とても壊れやすいものが壊れてしまった。立つのもやっとなハルカを抱きしめる。
前に抱きしめた時はこんなに弱々しかっただろうか、と壊さないように力加減はした。
敵が居ても他のヒーローが居ても、だ。ギュッと強く抱きしめると俺の首筋に顔を埋めて声を上げてわんわんと泣く。震える体をより密着するように少しだけ力を強くした。
背中をさすってあやしながら、無防備な状態を狙われないようにと、他を監視する。
…タツマキと黒い精子との戦いは、黒い精子と突如現れたガロウとの戦いへと変わっていた。
見た目を変えた者同士、ガロウと黒い精子との戦いだ。
動きは機敏で速い。目でも動きは捉えられない。
敵同士の戦い、ガロウは勝ち進み、その次の矛先はヒーローへと向いた。狙われたのは瓦礫から這い上がってこれただろう、アマイマスクだ。
ここに居たら確実に狙われるだろうよ。もう一度ギュッと柔らかさと体温を確かめるように抱きしめると、そっとその場の瓦礫に座らせた。
ぺたん、と座るハルカは、俺と同じく死なないはずで有りながら瞳からは輝くものが消え失せてまるで死んだようにも見えた。
アマイマスクの方に居るガロウに気を配りながら、その死んだ瞳に話しかけた。涙の量は減ったものの、まだ枯れはしない。
「お前はここにいろ。前に決して出るな…いいな?」
『……』