第1章 壱
ある程度の荷物を纏め、空になった家を振り返る。
一人で暮らしていた此処に思い出などないが、長く住んだ所を離れるのは不思議な感覚になる。
そういえばいつから私は此処に住んでいたんだっけ。
過去を思い出そうとするとノイズが走る。
断片的にしか思い出せない、家族のことも鬼殺隊に入隊した経緯も。
まるで思い出すなと言われているような、そんな感覚。
バサッ…
物思いにふけていた時、急に肩が重くなりその原因に視線を向ければ一羽の鴉が止まっていた。
鎹鴉「ホントウニ行クノカ、柱ノ鍛練ハ甘クナイゾ。」
『うん、私が決めた事だから。もう弱い事を理由に逃げたくないの。』
優しく人差し指で鎹鴉の頭を撫でながらそう答えれば目を細めて気持ちよさそうにしている。
そういえば初めて鎹鴉を見た時は驚いたっけ。
喋る鴉なんて存在するのが不思議だったから。
鴉「紅音ガ決メタコトナラツイテ行ク。」
『ありがとう、トト。』
_____に…さ…
トトが来てくれたおかげで思い出さずに済んだよ。