第1章 壱
ザッ…
人の気配を感じて埋めていた重だるい顔をゆっくりと上げる。視界に広がるのは数刻前に美しいと思った炎のような色だった。
?「鬼殺隊士がそんな浮かない顔をしてどうする!!」
張りのある凛とした声、キリッとした大きな瞳はどことなく視線が合わない。
むんっと腕を組みながら目の前に立つ男は初任務の応援に来てくれた隊士だった。
『(この人…どこ見てるんだろう…。)』
多少なりとも視線が合えばいいのだが中々視線が合わない。
あれ、これって私に話しかけてるん…だよ、ね?
辺りを見回しても彼の目の前には自分しかいない、ということはやはり私に話しかけている。
突然の事に驚き、黙った後にゆっくりと口を開いた。
『自分がもっと強ければ仲間達は死なずに済んだかもしれないのに…そう思うと不甲斐なくて…。』
自分の隣に置いてある鉛色の刀をぼんやりと眺めながらそう呟く。
己に力があれば、呼吸を使いこなせていれば刀身も色を宿し実力を発揮できていただろう。
実際はどちらも使いこなせずに仲間を死なせ、挙句には足でまといにしかなっていない。
『私は先輩に助けられて今ここにいる、自分の力で生き残った訳じゃない。』
喰われてしまった隊士の方が実力はあっただろう。
それならいっその事、私が生き残るよりも彼女が生き残った方が良かっただろうに。
思考回路がどんどん悪い方に進んでいく。
炎の色を纏った隊士は聞いているのか分からないが、真っ直ぐ見つめ黙っていた。
『情けない話…あの子じゃなく私が…死「それ以上その先の言葉を言ってはいけない。」えっ…』
負の思考に囚われ思いのままに出した言葉は、先程まで黙って聞いていた隊士の凛とした声に遮られた。
出会ってすぐの大きな声とは違う意志のはっきりとした声、真面目と言えばわかりやすいのかもしれない。
彼との視線は合わぬままだが、そんな隊士の姿をじっと見つめる。