第7章 伏黒君
『経験…?』
私の耳元に顔を持ってきた伏黒君から発せられた言葉の意味が分からず、そう首を傾げる。
肩に置かれていた彼の手がするりと私の首を伝って頬に添えられて、思わず目を見開いてしまった。
経験って、そういうこと…!?
そんなの無いよ!無いに決まって…
「神楽」
『は、はい』
「他の方法が分かんなくて悪い。これ、試してもいいか?」
!!
伏黒君の片手に視線を移せば、彼にしか意味が分からないその紙を持っており、真剣な表情から彼の本気さを悟る。
『ふ、伏黒君は、その…いいの?』
「神楽なら問題ない」
即答…!?
やっぱり伏黒君は経験あるのかな…
いつ何が起こるか分からないこの呪霊の生み出したこの空間で、丁寧に指示が書いてあるならすぐに実行するべきだと頭では分かっているのに、身体はどんどん固まっていく。
男の子に顔を触れられているっていうだけで、胸が苦しいくらい緊張してしまっているのに。
再び目の前の彼を見上げれば、優しく微笑まれてしまう。
「神楽、目、閉じれるか」
ほ、本当に、伏黒君と私が…?
大きくなっていく鼓動の音が恥ずかしくて、ぎゅっと胸を押さえつけてゆっくり目を閉じる。
『あの、私…何も分かんなくて、迷惑、かけちゃったら、その…ごめんね』