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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第66章 I want to be scarlet ✳︎✳︎



そうして今日も右腕の強烈な痛みを抱え、彼に全く勝てる事なく全部の稽古が終了した。

10分後。縁側に杏寿郎さんと隣り合って座り、彼の両指のツボ押しをしている所だ。


「はい、これで終わりです」
「ありがとう。では君も手を」


頷いた私に今度は杏寿郎さんが同じように両指のツボを刺激してくれる。
手合わせをしている時の彼はとても力が強いが、私の指の指圧加減はちょうど良く、心地よいぐらいだ。


「よし、終いだ。今日もお疲れさま!」
「ありがとうございました……ってあれ、どうしたんですか?杏寿郎さん」

指圧は終わったのに、左手に私の右手をのせたままおろしてくれない彼。


「ん?ああ、すまない。立派な剣士の手だと改めて感じていた所だ」

「ありがとうございます……でもあまり女の子らしくない手だから、複雑なんですけどね」


鬼狩りを生業にしていると1キロある日輪刀を常に振るう日々の為、マメやタコは出来ては潰れ、出来ては潰れを繰り返してしまう。
だから女子が持つ、柔らかくて触り心地が良い掌とは打って代わって、硬く分厚くなるのが通例だ。


これが剣士の証と言えばその通りなのだが、それだけでは割り切れない思いがある。女性隊士共通の悩みなのではないだろうか。
たまに全然気にしない女性隊士にも出会うけど、そう言う人は一部だけで大半はきっと私と同じように葛藤を抱えているはず。


「そんな事はないぞ!君の手は確かに剣士の手ではあるが、爪や指の形はとても綺麗だ。故に爪紅がよく映える手だといつも思っているが?」

「んっ……」

杏寿郎さんの唇が掌、そして指先にちぅ……と音を響かせながら落ちた。
ドキ、ドキ、と高まる鼓動。顔の表面温度もジワっと上がるのがわかる。


「今日もこの後、共に湯浴みするか?七瀬」
「………はい……」

よしよしと頭を撫でてくれた彼は私の両手を掴み直して、立ち上がらせてくれる。

飴と鞭。甘くする所と厳しくする所の釣り合いが丁度良い恋人に私はいつも翻弄されてしまうけど、案外これが心地よかったりする。
だから恋は厄介だなあとよく思う。

恋人の杏寿郎さんはこの後、とびきり甘い時間をくれた。
こうして私はますます彼を好きになっていくのである。



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