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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第65章 年越しは3つの日輪と 〜another story〜✳︎✳︎



「杏寿郎さん、私これが好きです」

彼に声をかけて右手の人差し指で該当の品を指差すと、後ろから店員さんに「お目が高いですね」と声をかけられた。

どうやらこのお店にある簪の中で1番売れている品との事だ。

「緋色がよく出ています。数年前の鹿島神宮で2つの雷が落ちたのですが、2つの内の1つがこの緋色だったと。何でも”幸運を呼ぶ緋色”とそれ以降言われているんだそうですよ。赤い雷なんてにわかには信じられないんですけどね。まあよくある都市伝説の類とは思いますが……」


それって………私は杏寿郎さんと思わず顔を見合わす。

「では店主、これを頂きたい。それから……」
「あ、杏寿郎さん」

何やらコソコソ話をするように私から離れてしまった。何だったのだろう?疑問符が頭に思い浮かぶが、勘定をしてくれている杏寿郎さんを待つ事5分。

彼が桐箱を持って私の元にやって来た。

「手元が寒そうだ。これをすると良いのではないか?」

預かっていた風呂敷に桐箱を入れると、彼が渡してくれた物は……

「お気遣いありがとうございます……あれ?この手袋、指先が出るようになっているんですね。珍しい」

杏寿郎さんから続けて受け取ったのは、丁度肘元まで覆える長さの黒色の手袋だ。
しかし従来の物と違って指先部分を隠す生地がなく、親指部分だけが分かれている。

「君は爪紅を塗っているだろう?全て覆ってしまうとせっかくの指先が見えなくなる。最近の流行でこう言った物もよく売れているそうだ!」

早速両手に着用してみた。

「これ、凄く暖かいです!親指部分を外せば着物の中に隠せますし……外す手間がないのが助かります」

「そうか!ならば良かった。生地に天竺と言う素材を使用しているようだ。尚且つ天然の素材故に、柔らかく優しい肌触りだとも言っていたぞ」

「そうですね、確かにつけ心地は良いです」

杏寿郎さんはいつだって私を気遣ってくれるけど、夫婦になってそれは増した気がする。
自慢の恋人が自慢の旦那様になった瞬間、とでも言おうか。

店主の方にお礼を言って呉服屋を出ると、彼は自然な動作で私の左手を繋いでくれる。

「指先が見えるのがやっぱり嬉しいです。気分が上がりますもん」

繋がれてない方の右手を顔の前まで持って来ると、杏寿郎さんはそれを微笑ましく見てくれている。




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