第65章 年越しは3つの日輪と 〜another story〜✳︎✳︎
「お前達、行く所があるのだろう?俺と千寿郎は店を見て回って来る。中川屋で落ち合おう」
行く所……と聞き、一瞬頭に疑問符が浮かんだがすぐに思い当たり、自分の顔の表面温度が少し上昇するのがわかる。
槇寿郎さん……お義父さんと千寿郎くんに「また後で」と互いに挨拶を交わすと、双方が別々の方向に歩き出す。
「七瀬は寒くないか?」
杏寿郎さんはそう言うと、私の左手をきゅっと握って瞬く間に絡めて来た。
笑顔がこぼれる瞬間だ。
「大丈夫ですよ。杏寿郎さんの手がとてもあたたかいので」
「そうか」
左手が彼によって持ち上げられる。私の爪紅を確認した杏寿郎さんは、とても嬉しそうに表情を緩めた。
「懐かしいな。緋色と青柳色か」
「はい、川越に行くならやっぱりこの組み合わせかなあって」
この2色は私と彼が鬼殺隊に所属していた時、黒い隊服の上に羽織っていた互いの羽織の色だ。
前回杏寿郎さんと川越に来た時もこの2色を塗っていたのだけど、覚えていてくれた事が私はとても嬉しかった。
「七瀬もそうしていると、女子と言うより”奥方”だな」
「ありがとうございます……杏寿郎さんも旦那さんって言葉がぴったりだと思いますよ」
互いに褒め合った所で、今日の装いをご紹介。
私は彼から慰労と言う意味も込めて仕立ててもらった2着の着物がある。1つは自分の刀身だった色の茜色。
そしてもう1つが ———
「桃色と言っても色々あるのだな。店主に相談した際に長く着てもらうならやや落ち着いた物にした方が良いとは聞いていたが…」
私が今着ているのは、彼が求婚してくれた時に渡してくれたスターチスと同じ乾鮭色(からさけいろ=サーモンピンク)だ。
着物の模様は鹿の子で、帯は生成りの唐草柄と言う組み合わせ。
これに防寒着として、上から濃紺の長羽織を着用し、首元には灰色の襟巻きを巻いている。
そして、杏寿郎さんの着物の色は青紫色だ。
防寒着として角袖外套(かくそでがいとう)をその上に着用しており、その色は同系色である藍色と言った装い。