第64章 白夜と極夜 〜another story〜 ✴︎✴︎
杏寿郎は致命傷を免れたものの、猗窩座から受けた攻撃により数多の臓器の損傷が激しく、完治までに2ヶ月を要した。
そして左目の視力を失ったが故に、距離の取り方が困難にもなった。
日常生活に然程影響はなかったが、鬼殺において視野が狭い状態は非常に厳しい現実となり、天元同様に柱の職は辞したのだ。
「下弦の壱との戦いで、水と炎…2つの呼吸を変わる変わる使用していたようだからな!体にかかる疲労の蓄積はいかほどだったか……想像するに難くない」
ズズズっとお茶を杏寿郎が一口飲めば、天元もその横で同じように茶を一口飲む。
「なあ煉獄、お前ちゃんと育成出来てんのか?」
「君、それはどういう意味だ?」
「まんまだよ。お前の稽古とにかくキツくて、いつの間にか来なくなってたじゃねーか。1人2人の話じゃないだろ?」
「ああ、それは案ずるな!きちんと七瀬が釣り合い(=バランス)を取ってくれている!」
なるほど……と1つ頷いた天元は次に小皿に置いてある大福に手をつけた。
「おっ、これが噂の塩大福か……本当にうめぇな!嫁達がなかなか買えないって言ってたのも納得だわ……」
「我が家もなかなか買えないぞ?今朝はたまたま買えたと千寿郎が言っていたぐらいだ」
「嬉しいねぇ、まあ俺もお前も上弦と戦って大怪我はしちまったが、こうして生きてるからなー。こう言うの”持っている”っつーんだろ?」
ほぉ……と感心する杏寿郎に天元が「嫁達が教えてくれた」と告げると、納得したように頷いた。
「でさ、どーすんの。お前ら」
「どうとは何だ。すまんが、質問の趣旨がわからん」
相変わらず自分の色恋事には疎いな…と心の中で1人ごちる天元である。
「所帯の話だよ。お前は引退、あいつも前線に向かう事は殆ど無くなっただろ?思い合ってんだからそろそろ考えても良いんじゃねーの」
「ふむ、所帯か……」
顎に手をやり、目を瞑って考え出す杏寿郎だ。