第64章 白夜と極夜 〜another story〜 ✴︎✴︎
「そう言えばそろそろだったか?極大は………」
「極大……?あ!しし座流星群ですか?」
「いかにも」
ポン、と杏寿郎の左掌が七瀬の頭に乗せられる。
「今日も流れているのか?」
「どうでしょう……今日は13日ですよね。例年だと14日頃から流れ始めるんですけど……」
“運が良ければ”
七瀬がそう付け足して発言すると ———
「ふむ、ではその運とやらにかけてみたい」
「珍しいですね、杏寿郎さんがそんな事言うなんて」
「そうだろうか?」
「はい……運任せにせず、自分で見て聞いて……それからきちんと行動に移して実績を積む、と言う表象(=イメージ)が私の中にあるので」
「ほう……」
自分の事をよく見てくれている恋人に杏寿郎の顔が柔らかく破顔した。
「んぅ……」
ち、ちぅ、と小鳥が囀るような口付けが七瀬の両瞼に落とされた後、ふっくらとした唇にも一回彼のそれが優しく当たる。
杏寿郎の顔が離れると、桃色に染まった七瀬の顔がそこにあった。
「君と恋仲になって1年か。あっと言う間だったな」
「はい……とても濃い1年でした」
「杏寿郎さん、私と出会ってくれて本当にありがとうございます」
「それは俺も同じだな。こちらこそ礼を言う」
2人はもう一度だけ口付けを交わし合うと、七瀬の体力がまだ残っている内に湯浴みに向かった。
30分後。
七瀬の部屋に共に戻って来ると………
「えっ?本当に観測するんですか?湯冷めしませんか…?」
「俺は一向に構わんぞ。こうすれば君が冷える心配はないと思うが?」
彼女の体を後ろから逞しい両腕が包み込む。ふわっとした柔らかい仕草に思わず七瀬は笑顔になった。
「俺は明日から任務の為、ここを離れる。その前にまた流星群を君と観たいんだ。去年と同じように」
「杏寿郎さん……」
『もう……大好き!』
くるっと自分の体を回し、七瀬は恋人を前からぎゅうっと抱きしめる。