第63章 紫電の言伝を茜色の君へ
「……青柳色の羽織りの……隊士は……近くに……いますか」
周りを見回すと、そう離れていない所に該当する隊士と思われる人物が確認出来た。
「ああ、気絶しているだけのようだ」
「良かっ………た」
桐谷くんは心から安堵していた。
「俺の……恋人……なんです……名前は……」
“沢渡七瀬”
それが彼女の名前らしい。
「彼女に……剣士を…やめるな……と。伝えてください……」
「了解した、責任を持って伝えよう。君はもう……」
———— 喋るな
そう言おうとすると、彼は更に言葉を続けた。
「これは俺の……独り言だと……思って……聞き流してくれて………構いません」
「…………」
「一緒にいれなくて……ごめん………もし好きな人が………この先出来て………その人と思いが………通じたら……」
「世界で一番……幸せに……なって………く……れ……」
彼は最後の力を振り絞って言うと、静かに息を引き取った。
『世界一幸せに、か』
それから5日後、沢渡七瀬がそろそろ目を覚ますだろうと胡蝶が文で知らせて来た。よし、では行くとしよう。
俺は任務前に蝶屋敷へ立ち寄る事にした。
「こんにちは、煉獄さん。七瀬さんは先程目を覚ましたようですよ」
到着するなり、胡蝶が俺の姿を捉えるとそう声をかけてくれる。
「そうか、訪ねても問題ないか?」
「ええ、構いませんよ。こちらです」
それから彼女の部屋まで案内をしてくれた。
「では何かございましたら、お申し付け下さい」
「ああ、ありがとう」
胡蝶に礼を言い、改めて引き戸に向き合う。
コンコン、と2回扉を叩くと中から「はい、どなたですか?」と声が聞こえた。
「煉獄だ。入室しても良いだろうか」
「……炎柱様ですか?」
それからやや間があった後に「どうぞ」と入室を促す返事が返って来た。
俺がガラ……と引き戸を開けると ———