第61章 茜は緋(あけ)に一生恋をする
「俺は君と”夫婦”と言う繋がりを作りたい」
「…………」
夫婦?夫婦ってあの夫婦………?
「七瀬を煉獄家の嫁として迎えたい」
私が杏寿郎さんのお嫁さんに?
目の前の彼が紡ぐ言葉に思考がなかなかついていかない。
「お見合い」
「ん?見合い?」
ここで見合いの話か。
眉を垂れ下げてそんな事を言いたげに私を見る杏寿郎さんだ。
「山の様に届いていた写真の方達は?皆さんお綺麗でしたし、煉獄家に釣り合う方ばかりでしたけど」
「ああ、それなら全部丁重にお断りしたぞ……だが、何故君が知っている」
グッと彼の顔が私に近づく。また胸のドキドキが一段と速く大きく脈打ち始めた。
「ん、えっとそれは………」
気になって、こっそり見たとは恥ずかしくてとても言えない。
「…………さあ?」
私はあさっての方向をむいてしらばっくれた。
絶対言わない!
「まあ良いとしよう。そもそも俺には君と言うかけがえのない存在が既にいるんだ。受ける必要が何処にある?」
「………」
どうしよう。嬉しすぎて言葉が出ない………
「七瀬どうした?他にも何か気になる事があるのか」
「煉獄の名前に重みがあります。それに私で本当に良いのかどうか」
「まあ軽くはないな。躊躇するのもわからなくはない。だが……」
杏寿郎さんは私の手からスターチスをそっと抜き取ると、寝台の横の棚にゆっくりと両手で置く。
とてもとても大事そうに。
「君は炎の呼吸の歴史を変えた。これは煉獄家にとって非常に大きな事。だから……その重さを背負ってもらいたい。俺と一緒に」
『兄上が気にされていました。継子は確かに柱の後継ですけど、恋人でもある七瀬さんにそれらを背負わせて良いのか…と』
ふと千寿郎くんが以前言っていた言葉が脳内に反芻する。
あの時は”背負わせて良いのか”
今は”自分と一緒に背負ってもらいたい”
杏寿郎さんの覚悟が私に伝わって来た。