第61章 茜は緋(あけ)に一生恋をする
どうしたんだろう?
訝しげに小首を傾げる私に彼が伝えて来た言葉は……
「俺との繋がりが1つ無くなったから悲しいと言っていたそうだな」
私は顔を下に向けた。
善逸め………。
「だって私はあなたと同じ呼吸を使いたくて……大好きなあなたにもっと近づきたかったんです。だからどんなに稽古が苦しくても耐えられた」
顔を上げると自分の両目を真っ直ぐ捉えるのは彼の日輪の双眸。
「私にとって炎の呼吸を使うと言う事は生きがいでした。そんな杏寿郎さんとの大事な繋がりが全く使えなくなったんです………半分生きる意味を失ったかもしれません」
はあっと深いため息をつき、再度顔を下に向ける。
「ならば七瀬、俺から提案があるのだが」
「……何ですか?」
「俺との繋がりが1つ無くなったと言うのなら、また新たな繋がりを1つ作らないか?」
「え……?」
繋がりって………何だろう。自分の顔をゆっくり上に向けるとそこには ———
私の掌と同じ大きさぐらいのかわいい花束がそこにある。
そういえば彼が何か手に持っているなあとは思ってはいたけど、泣いていてそれどころではなかったのだ。
「スターチスですか?」
これってそんな………………花の色は全て桃色。
そしてその花言葉は。
———— 永久不変 ———
「八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を」
「それ、スサノオの和歌…」
「そうだな」
杏寿郎さんは差し出したスターチスをそっと私の両手に握らせてくれた。
「この和歌は、雲が幾重にも湧く出雲の地で妻との新居によい場所を見つけた。 だから妻の為に垣根を幾重にも造ろう……そのような意味であったな。相違はないか」
「はい………」
ドキ、ドキ、と少しずつ高鳴っていく心臓がうるさい。