第61章 茜は緋(あけ)に一生恋をする
「せっかく……好きな人と同じ呼吸を使えるようになったのに……」
一粒ずつ流れた涙の後から、雫達がぽた……ぽた……と溢れて来る。
「自慢の継子だ!って言ってもらえて本当に嬉しかったのに……」
ああ、ダメだ。もう止まらない……。
「杏寿郎さんとの大事な繋がりが一つ無くなったから、私凄く悲しいよ…!」
それから会話は涙に阻まれて出来なかった。
善逸は私の肩にポン……と一回手を乗せると、何も言わずに部屋を出ていく。
30分後 ———
どうしよう、また目が痛い。
私はいつかと同じように、視界が狭くなった両目を確認しようと棚に手を伸ばす。その時勢いよく扉が開いた。
「あ、善逸ごめん。そこの棚に手鏡が入っていると思うから、取ってもらえない?」
涙を両手でしっかり拭った次の瞬間 ———力強く温かい腕でギュッと右横から抱きしめられた。
「七瀬……!」
この声、この匂い……杏寿郎さんだ!
さっき泣き止んだばかりなのに、私の双眸からまた涙がポロ、ポロ、と1つずつこぼれた。
「杏寿郎さん、杏寿郎さん」
「ああ」
「杏寿郎さん………!」
「七瀬、そんなに何回も呼ばなくても俺はここにいるぞ」
両手を彼の腕に回すと、より一層力が加わる。
「目が覚めるのが遅くなってしまってごめんなさい」
そう言葉を発すると、彼の腕が私の体からゆっくり外された。
恋人の両手が私の頬を優しく包みこんでくれると、視界いっぱいに大好きな人の顔が映る。
「よく、顔を見せてくれ」
「お岩さんになってるからちょっと恥ずかしいんですけど………」
両瞼に一回ずつ優しい口付けが落ちた。
「こんなにかわいいお岩さんはいないぞ」
「…………もう……」
私からも彼の唇に触れるだけの口付けを贈る。
「ごめんなさい」
「む?何故また謝る?」
「炎の呼吸、使えなくなってしまいました」
しばらく2人の間に沈黙が落ちる。
「もう継子はおしまいで……」「七瀬」
私が最後まで言葉を言わない内に名前が呼ばれた。
「先程……我妻少年から聞いたのだが」
1つ咳払いをすると、私の両肩に自分の手を乗せる杏寿郎さんだ。