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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎



それから5年の月日が過ぎ、鬼となった朝緋は毎夜毎夜人間を喰った。
更に無惨の気に入りとなっている故に、度々始祖の血液を与えられ、どんどん鬼の中で地位を上げていった。


「お願いします……この子だけは見逃して下さい。私の大切な希望なんです」

秋の気配を纏った空気が少しずつ流れるようになって来た9月中旬の夜。
夕葉は1人の若い女と、女がその腕に抱いている女児と対峙していた。

「嫌だね。お前もそいつも俺の血と似ている香りがする。だから2人共喰わせてもらう」

着用している着流しは人間だった時と同じ群青色だが、焦茶色の短髪だった髪は腰までの銀髪に変わり、口腔内には牙。

そして両手の先には鋭く長い爪が10個。肌は人間離れした白さにつるんとしたきめ細やかさ。

どこからどう見ても人ではない。


「血鬼術 —— 炎心・蜜(えんしん・みつ)」

“炎心”と呼ばれた青白い光は夕葉の目の前で幼子を抱きしめていた女の心臓を焼いた。
そして、女は顔を歪めてドサッと横向きに倒れる。


「お……かあ……さ……」

女児は母親が突然口元から吐血した姿を見て腰を抜かした。
体が小刻みに震えている。

「おっと、逃げんなよ。お前の心臓も今から焼いてやる」
「逃げ……て………あなただけは……あさ……ひ…」

“あさひ”

瞬間、鬼の心臓が一瞬だけ跳ね上がった。

『………?あさひだと……?』

通常無惨によって鬼にされた物は人間として生きていた記憶を忘れてしまうが、夕葉の場合は少し違ったようだ。

彼がほんの少しだけ動きを止めていた隙に、あさひと呼ばれた女児はその場から何とか逃げ出した。

「良か……った………あさ……ひ…」

この言葉を最後に女は息を引き取る。
夕葉は思考を取り戻すと屍となった女の体から心臓を引き抜き、それを一口齧った。

『……………!!!なんだ、目が……』

突然双眸に違和感を感じた。

しかし痛みはなく、ほんの一瞬の出来事。持っていた心臓を全て喰い終わった彼は、女の体の側に転がっていた巾着袋を探る。

掌におさまる大きさの手鏡を取り出した夕葉は銀色に輝く蓋を開けて自分の両目を確認した。

「………茜色?」

夕葉がたった今食した女は、まだ彼が人間だった頃 —— 朝緋と呼ばれていた時に愛した”茜” その人であった。



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