第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎
カナヲが水流のような足運びを駆使しつつ、日輪刀で巨大な輪の軌道を描き、善逸は一撃必殺の抜刀術を放つ。
そんな2つの型を後押しするように、禰󠄀豆子が放ったのは自分の血液を爆ぜる術。
三者の型と術が上手く混ざり合い、この攻撃によって白い龍は消滅した。
チン ——
善逸は雷刀を納刀すると、白い外套を外した隊服の上から右肩を少し押さえているカナヲの元へ駆け寄る。
「……大丈夫?」
「うん、かすり傷だよ」
「カナヲちゃん、ありがとう。七瀬ちゃんを助けてくれて....目も平気?」
善逸がまた問いかけると、先程と同じようにうんと頷くカナヲだ。
「使用時間は一瞬だったから、もう大丈夫。考える前に体が動いてたの」
「うん……」
「七瀬ちゃんが助かって良かった。私もうれし…」
「ムー」
カナヲの言葉が遮られた。禰󠄀豆子がそうっと彼女を抱きしめたからだ。
「禰󠄀豆子ちゃんもありがとう、だって」
「わかるの?」
「俺、禰󠄀豆子ちゃんの事大好きだから」
「………」
一瞬目を見開くカナヲだが、次の間にはにっこりと口元に狐を描く。
「行こう?」
「うん、あいつは今夜必ず倒さなきゃ」
「ヒノカミ神楽 —— 碧羅の天」
「漆ノ型 —— 紅蓮業火」
杏寿郎と炭治郎が呼吸を合わせて、夕葉に対して連撃を打つ。
2つの型はよく似ており、反時計周りに日輪刀で2通りの狐が描かれた後、炭治郎のヒノカミ神楽を杏寿郎が漆の型で後方から後押しをしていった。
『この型が出来るだろうか、自分に……』
七瀬は2人の姿を見ながら思案していた。
『ううん、出来る出来ないじゃなくて……』
彼女は頭を2回程、ふるふると振る。
『やらなきゃいけない。大丈夫、きっと上手くいく…』
目を瞑り、日輪刀を真っ直ぐ前方に構えながら、今度はフウ……と深呼吸を1つすると、頭の中に型が成功する表象(=イメージ)を描く。
焦茶色の双眸をぱちっと開けると、足元からじわじわと闘気が揺れるように上昇して来ていた。
「壱ノ型 —— 不知火」
七瀬が手に持つ、茜色の刀身から真横に薙ぐ一閃の炎が放たれた。