第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎
“俺はそう信じている”
七瀬の焦茶色の双眸から流れていた涙は、彼女をどんな時も信じてくれる力強い言葉によって、冷たい雫から温かい雫へと変化した。
「カナヲ……戻って良いよ。炭治郎は?あの龍は大丈夫なの?」
七瀬が友人の背中をポンポン……と柔らかく撫でると、コクンと一回頷いた後に”もう倒している”と言葉が漏れた。
「良かった…。止血して向かうから」
「本当に?」
「うん、もう大丈夫。カナヲと……それから杏寿郎さんに勇気もらったから」
「そっか」
うん、と一度頷きながらにっこりと笑いかけた七瀬はカナヲをそうっと抱きしめる。
「この任務が終わったら、また手合わせしようよ」
「わかった……」
“負けないよ” 小さな声がかすれ気味に聞こえたと思うと同時にカナヲも七瀬をそっと抱きしめ、そして駆け出して行った。
フウ、と一つ七瀬は深呼吸をゆっくりとして、その場に静かに仰向けになる。空には丸く輝く綺麗な月が、そして先日より少ない数だが、流星も夜空を彩っていた。
『……止血出来るかな。ちょっと時間経ったからどうだろう』
そんな思いがよぎったが、胸に、脳に、全神経を集中させ、呼吸をゆっくりと開始。
フー…フー……ゆっくりと吸って吐く。この作業を七瀬は繰り返す。
破れた血管と……それから血が流れている所……。頭に表象(=イメージ)を思い描きながら、グッ……と筋肉に力を入れる。
『はあ、苦しい!でも、もう少し……頑張れ……』
苦痛に顔を歪めながら、集中力を高めていく七瀬だ。
『七瀬!雑念は禁物だ!集中しろ!』
稽古の時、杏寿郎によく言われている言葉だ。
“集中”
それを繰り返し繰り返し、声を出さずにただひたすらに胸に意識を向け、続けていく。
ググググッ…… 筋肉が締まっていくのがハッキリと感じられる。
『う……キツい……』
額に汗が浮かぶ中 ——
「出来た……」
七瀬は胸に手を当て、出血場所を確かめる。先程まで流れていた血液はもう止まったようだ。
そのまま深呼吸をゆっくり10回程して瞑っていた目を開けた後、ゆっくりと体を起こすと……そこには。