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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎



“君の呼吸は強くて、あたたかいな”
七瀬はいつだったか、杏寿郎も同じように自分に言ってくれたのを思い出していた。

『そうだ……杏寿郎さんもそう言ってくれた…』

「だから偽物なんかじゃない。ちゃんとあなたの温度が感じられるの………七瀬ちゃんの呼吸は七瀬ちゃん自身の物だよ」



「炎の呼吸は七瀬ちゃんその物なんだよ」

七瀬の両目から涙がまた一雫こぼれた。
その瞬間 ———


「炎の呼吸・弐ノ型」
「昇り炎天」

七瀬とカナヲがいる場所のすぐ近くで、明るい明るい炎が本殿一帯を照らすように燃え上がった。
緋色の炎刀が下段から上段に円を描く様は、正に朝日の光。


七瀬の心がどんなに沈んでいても。
七瀬の心がどんなに壊れそうになっても。
いつだって彼女に、立ち上がる勇気をくれる眩い陽光の道標。

——— 炎柱、煉獄杏寿郎。彼もまた炎の呼吸その物。

七瀬が大好きな杏寿郎の背中が目の前にあった。
彼が型を放ったと同時に、炎の柱の羽織がフワリと柔らかく上に舞い上がる。

その下に見える物……それは柱の日輪刀にも刻んである”悪鬼滅殺”の内の一部分。

“滅”の1文字だ。









「辛くなったらみんなの背中を思い出せ……ですか?」
煉獄邸から出た直後、彼はそんな事を七瀬に伝えていた。

「ああ、そうだ。鬼殺隊全員の背中だな!」
「背中…」

彼女はそう言われて少し思案する。”あ……”と閃いて言葉に出したのは。


「滅、の字ですか。隊服の!」
思わず自分の背中に触れて確かめると「うむ!」と頷く杏寿郎だ。


「でも杏寿郎さん、伊之助は上半身裸ですよ?」
「こら、揚げ足を取るな」
「……すみません」

彼女の額がコツン、と優しくこづかれた。
それから彼はコホンと一つ咳払いをするとこう続ける。


「君に以前言ったかもしれないが、鬼殺をする目的は皆それぞれ違う。しかし、背負っているものは鬼を滅する志。これは隊士全員に共通している思いだろう?」

「はい……」
「それは忘れずにな」

七瀬の頭にぽんと手を乗せ、杏寿郎はニコッと笑ってくれた。


「きっと七瀬は起き上がる事が出来るはずだ。俺はそう信じている」



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