第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎
「白い龍……気味が悪い」
七瀬がそう呟いてしまうのも仕方がない。夕葉が杏寿郎と対峙している際に放った炎が形を変え、青白い炎の龍となって襲いかかっていた。
炭治郎とカナヲ、善逸と禰󠄀豆子がそれぞれ一体ずつ相手をしている。そして七瀬の前にも一体鎮座しているが、大きさが他ニ匹に比べるとやや小ぶりだ。
『まずは……』
スウ……と呼吸を水に変化させた七瀬の刀身が茜色から空色に変化する。
—— 龍には龍 ———
「水の呼吸 ——— 拾ノ型 」
日輪刀周辺に波打つ青が現れ、そしてそれは水龍となり、舞うように前方に進んでいく。
「生生流転!」
青い龍が体をうねらせながら白い龍の周りを取り囲む。やがてぎゅっと3匹の龍が白龍を締め付け、ジュウ……と炎が水によって消火するように空気と混ざり合って消失した。
ふう、と1つ息をついた七瀬は他2匹の白龍を交互に見やる。
そこへ ———
「よう、七瀬。俺の相手もしてくれよ —— 血鬼術」
「夕葉………!」
杏寿郎がいた場所から術で移動して来た鬼が、七瀬が立っている場所の僅か3メートル先より術を放つ。対し、彼女は先程と違い、臆する事なく呼吸を水から炎へ一瞬で変える。
「炎心・極」
「炎の呼吸 —— 壱ノ型・改 不知火・連!」
鬼の青白い炎を連続で横に薙ぎ払って回避した七瀬は、そのまま更に炎刀を持つ両腕に力をグッと込め、茜色に燃える刃をぐるっと振り上げた。
「弐ノ型 —— 昇り炎天」
「参ノ型 —— 気炎万象」
弐ノ型を放ち終わると右足で地を蹴って高く跳躍し、上段から炎刀を迷いなく振り下ろす。連続した3つの攻撃で夕葉の両腕の肘から先がザクッと切り落とされる。
鈍い音が二度、地面に落下した後に響いた。断面からは焦げた臭いが立ち込めている。
「これでしばらく、あの炎は出せないでしょ」
七瀬は刀を振って血を落とすと再び構え直す。
「このままあなたを斬るから」
そのまま全身に闘気を練り上げ始めたその時。
「ここまで呼吸を使いこなせるようになった事、実に素晴らしいな……だが」
夕葉はニヤッと笑うと続けてこう言った。
「お前のその呼吸、俺が使えるようにしてやった。そうだとしたらどうする?七瀬………」
「え……?」