第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎
「血鬼術 —— 」
「外炎・壁(がいえん・へき)」
夕葉は両手を素早く真横に開いて炎の壁を自分の前に出現させると、向かって来た不知火を回避する。
そして杏寿郎の後ろにいる5人に対し、先程も放った人の掌程の炎を攻撃の術として、素早く投げた。
「随分余裕なのだな。君の相手はこちらだが?」
再度放たれた壱ノ型。続けて壱ノ型の改が夕葉を襲う。
『波状攻撃を仕掛けるのも速い……ここは』
「血鬼術 —— 狐火旋回(きつねびせんかい)」
ポ、ポ、ポ、とそれは術名の通りの火だった。不知火の3連撃を火の玉が旋回しながら取り込んでいく。
『よし、全て仕留めた……何だ?』
自分の周囲に燃え盛る闘気。それが空気と混じりあっている様を肌で感じる夕葉だ。
「参ノ型 —— 気炎万象」
直後に緋色の炎が茜色の鬼の頭上を捉え、上段から真っ直ぐと日輪刀が振り下ろされた。
ザクッ ——
「くっ………」
夕葉の右腕が全てちぎれ飛ぶ。先程落下した時と同じように、鈍い音を響かせたそれは上腕から肘部分が焦げていた。
『一撃で斬るだけではなく、腕の一部分まで燃やすとは』
彼は後ろに回転してその場を離れるが、片腕を丸々一本失った為にやや平衡感覚に狂いが生じた。
一瞬だけ片膝をつき、またグッと力を入れると斬られた腕を再生させていく。しかし、多少時間がかかるようで肘部分までしか形を成していない。
「見事だ、流石は炎柱の雅号(がごう)を持つ者」
「世辞は生憎求めていない。それより奪った勾玉を直ちに返せ。君が殺めた娘のご家族に届けねばならん」
「これか?やだね」
首にかけていた勾玉を一度左人差し指で示した彼は術を放つ。
「血鬼術 ——— 内炎・残(ないえん・ざん)」
鬼の全身が炎に包まれる。すると夕葉の姿が残像を残すように、杏寿郎の目の前から消えた。
「………七瀬の所か!」
炎柱が後方に体を向けると、そこには ———