第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎
「そりゃ、光栄なこったァ」
「本当にこれは皆さんに感謝するしかありません」
その後、七瀬はいつぞや杏寿郎にも伝えた事を実弥にも話していった。
「ふーん、俺と煉獄と甘露寺がねェ……」
「はい。力、技術の釣り合いがとにかく良いですし、何より体の使い方が上手なんですよ。3人は瞬発力も羨ましいぐらい高いですしね」
「もちろん、柱の皆さんは総合的に抜きん出た方ばかりですよ。あくまでも私の一意見として捉えて下さいね。因みに無一郎くんは色々と才がありすぎるので、特別枠です」
「なるほどなァ」
そこまで話すと会話は途切れ、互いの茶を飲む音のみが響く。
「あ、そろそろ帰って任務の準備しなきゃ。不死川さん、お時間都合して頂いてありがとうございました」
「おゥ、気にすんな」
おぼんを流しに持って行こうとした七瀬を実弥は”置いとけ”の一言と共に右手で制した。
それにお礼を言った彼女は近くに置いていた日輪刀と風呂敷を掴むと、門扉に向かって行く。
「沢渡」
「何ですか?」
実弥の呼びかけに振り返る七瀬だ。
「またなァ、やっぱりお前の太刀筋は面白れェ」
「ええ、また必ず来ます」
★
「—— 来るぞ!」
『この炎!見覚えある……』
本殿から放射状に放たれた人の掌程の炎が杏寿郎、七瀬、炭治郎、カナヲ、善逸、そして禰󠄀豆子に襲いかかる。
「炎の呼吸・肆ノ型 —— 」
「盛炎のうねり」
炎柱が放った紅い渦が6つの炎を全て取り込み、相殺していく。そして……
「七瀬よく来たな。俺に喰われる覚悟が決まったか?」
炎の後ろから6人の前に姿を現したのは1人の鬼だ。
「違う!私はあなたを倒しにここへ来たの。喰われる為じゃない」
彼女は抜刀した日輪刀の切っ先を鬼に合わす。
「俺を倒しにねぇ」
彼は首を傾げながら、七瀬の事をバカにしたような笑みを浮かべる。そして自分と同じ瞳の色である茜の日輪刀をちらりと見た後、群青色の鞘にも目線を向けた。
『ようやくお前に会えた』
右手で自身の着流しをグッと掴む。
——その色は彼女の鞘と同じ群青の色である。