第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎
「美味しいよぉ〜、俺もう……幸せ」
ここは鹿島神宮から徒歩1分の場所にある甘味処「一期一会」
鬼殺隊士ゆかりの甘味処「以心伝心」に以前勤めていた菓子職人の1人が独立して経営している店だ。
「そう言えば女将さんからのれん分けしたお店があるって聞いた事があります。まさか鹿島神宮の近くだったなんて…」
嬉し涙を流しながら七瀬の目の前できんつばを食べているのは善逸だ。
「七瀬?どうした、急に静かになったな?」
彼女の右横でみたらし団子を品よく頬張るのは杏寿郎。既にこの時点で20本目。
「あ、すみません。カステラが美味しくて、それを噛み締めていました……」
「そうか!それは何より!古来より腹が減っては戦は出来ぬと言う。竈門少年、栗花落少女も食べているか??」
善逸の向かって右隣に座っている炭治郎、そしてその右隣に座っているカナヲは3色に彩られた団子を食べている。
「団子とっても美味しいです!一粒で3回楽しめるなんて贅沢ですよね……」
『あんこ…美味しい』
炭治郎が嬉々とした声を発しながら食しているのは、昌子が勧めたカステラ・きんつばと同等の人気商品 ”3色団子”
上からみたらし団子、草団子、きなこ団子が串に刺さっている。
まず1番上には醤油と黒砂糖を使ったタレで味付けされた、みたらし。
2本目のよもぎを思わせる草団子の上には、滑らかな食感且つ控えめな甘さのこし餡が塗られており、カナヲが舌鼓を打っているのはこの餡子だ。
そして1番下の団子。これは黄色い生地でたっぷりのきな粉がふりかけてある。
いずれも団子は大きめで、硬めに焼いている品。
「カステラにほうじ茶がまた合いますね……この茶葉って売られていないんでしょうか?持ち帰り出来ないのかなあ」
「茶葉なら君がそう言うだろうと思い、売っているのを先程確認したぞ!」
杏寿郎は天然と評される事もあるが、元来は観察力が高く、人の心の機微にも聡い。
「確か君はほうじ茶が特に好みではなかったか?」
「はい、その通りです……」
「うむ、では会計時に一緒に購入する旨を伝えておこう」
“すみません!!”と大きな声で店員を呼ぶ杏寿郎だ。
『ありがたいけど……彼の前で好きって言った事はないはず』
七瀬が恋人に惚れ直す瞬間は大体こう言った時だ。