第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎
ゴクン、と噛み砕いた喉仏を飲み込む。
しかし咽頭を通過して落下しなかった喉仏の一部分が空洞部分になっている箇所からポトリ、と落ちた。
夕葉は体が再生するのを待ってそれを再び口腔内に入れ、今度は取りこぼす事なく飲み込む。
再び咽頭を通過し、鉄と砂の味が食道を通り抜ける。
彼は1つ深い息を吐き、傍に転がした人間の右手を食べ始めた。
夕葉は老若男女全ての肉を他の鬼同様に食す鬼だが、特に気に入っているのは子供と若い女の血肉だ。
今も夢中で食べているのは先程心臓を燃やした母子の内、母親であった女の物である。
右手が終われば、左手首を。それらが終われば右足首、左足首……とボキ、ボキとへし折り、丁寧に時間をかけて食して行く。
「あー早く七瀬が喰いたい。あいつはどこが美味いんだろうな……」
女の四肢を全て食した夕葉はその場にゴロンと横になると月がまた双眸に映し出された。
『心臓はもちろん、あの焦茶色の双眸は美味いだろうな。あいつそういや指も綺麗だったし……』
「どこもかしこも喰い甲斐がありそうなのは間違いないか」
ククッと体を震わせた彼は下ろしていた銀色の髪を組紐で結ぶと、唇に付着した血液を右拳でグイッと拭う。
やがて母親だった女の体と一緒に子供の小さな血肉も味わい尽くした彼は、琵琶の音色と威厳がある低音の男の声と共にその場から姿を消した。
—— 時間を再度進めて、金曜日。
東京駅から乗車した杏寿郎一行は、山手線にて日暮里駅まで向かう。そしてそこから常磐線(じょうばんせん)に乗り換え、茨城県にある取手駅を目指す道中だ。
ガタン、ゴトン、と眠気を誘う心地良い拍動で電車が揺れる中、5人は3種の神器について話をしている。
「神器はそれぞれ漢字1文字で表される。これは天皇の持つ武力の象徴と解釈されているらしい。まず俺が持っている剣は”勇”、七瀬が持っている鏡は”知”、そして奪われた勾玉は”仁”だ」
「勇と知と仁ですか……」
七瀬が復唱する中、炭治郎・善逸・カナヲはふむふむ…と杏寿郎の話に相槌を打っている。