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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎



「七瀬ちゃん、その羽織……」
「ん?ああ、これ?巧が着てた物だよ。手直しして着れるようにした………わあ」

感極まった善逸は彼女に抱きついてしまった。肩が震えている様子を見て振り解くわけにも行かず、七瀬は彼の背中にポンポン…と左手を当てた。

「必ず討伐しようね、みんなで」
うん、うん……と静かに涙を流す善逸は首を縦に2回振り、そっと七瀬の体から自分の顔を離した瞬間、彼女は善逸の鼻をグッとつまむ。

「むぐっ……」
「約束して?次、涙を流す時はうれし涙にするって」

「うん……そうだね」
右拳で涙を拭った善逸は心配そうにこちらを見ていた炭治郎とカナヲの元に駆け寄り、先に改札に向かう。


「今のは上書きなしでお願いしますね」
「む……そうだな。だが……」

「ここは常に上書きさせてくれ」
杏寿郎の大きな右手が七瀬の小さな左手にそっと絡んだ。

「はーい」
「気が抜けた返事だな、もう一回!」
「はい、師範!」
「うむ!では参ろう。いざ、鹿島へ!」

杏寿郎が右足を出すと、半歩遅れて七瀬が右足を同じ方向に出す。
改札を抜けると、炭治郎・善逸・カナヲが引き締まった表情で迎えてくれた。
ジリリ……と発車を告げる音が響く中、車内にその身を移す。
こうして炎柱とその継子を含む鬼殺隊士5名は一路鹿島へ向かった。






— その前日の木曜日。時刻は22時半。
鹿島神宮に程近い森の中で月明かりを受け、柳の木の下に座り込んだ鬼がいた。

『あんた、知ってる?人間の男で1番美味しい部分って、喉仏なの。それも声が低い男の物はもう極上でね。あ、そういえばあんたも声が低いわよね…』

「喉仏ねぇ」

鬼は自分の喉に長く尖った2本の爪をブスッと突き刺し、その対象物をグイッと取り出した。ポタポタ……と彼の群青色の着流しに赤い染みとなって血液が広がって行く。

左手に持っていた人間の右手5指全てを食べ尽くした彼は、傍に残りの手首までの部分を転がし、取り出した喉仏を口腔内に入れてゆっくり咀嚼し始めた。

『まあ、悪くはないけど。自分の肉を喰った所で何の感情も湧かないぞ?朝霧……』

鬼の茜色の双眸に夜空に浮かんでいる丸い月がそれぞれ映り込む。
彼の名前は下弦の壱・夕葉。

七瀬がこの1年半強、片時も忘れる事が出来なかった鬼だ。

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