第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎
—— 1時間後。
流星の観測を終えた2人は杏寿郎の部屋へと来ていた。七瀬は既に湯浴みを済ませていたが、共に入りたそうにしていた彼と二度目の湯浴みをして、髪に香油をつけている所だ。
これは杏寿郎が彼女に贈った物で、就寝前によく使用している。
「あ、今日の分で無くなっちゃいました……また買いに行かないと」
ガラス瓶を何度振っても一滴も出て来ない。
ふう、と1つ息をついた七瀬は蓋を閉め、杏寿郎の文机の上にコトンと置いた。
「どうしたんですか?」
ふわっと七瀬の体を後ろから包み込むのは、勿論杏寿郎だ。
「いや……七瀬を表す色が茜色だとすると、表す香りは柑橘だな、と思っただけだ」
「ふふ、嬉しいです。柑橘系の果物や橙色、大好きなので」
「そう言えば君は橙色の着物を持っていたな!」
「はい!」
杏寿郎の腕に包み込まれていた七瀬はくるっと体を回し、彼に向き合うと恋人の両手をそっと掴んだ。
彼女の視線が杏寿郎の顔へと上がる。
「あの……杏寿郎さん」
「?どうした……?」
「……です……けど」
「すまん、もう少しはっきり伝えて欲しい」
七瀬の声が上手く聞き取れなかった杏寿郎は、自分の左耳を彼女の口元に持っていく。
コソコソコソ………と彼の耳に届いた言葉とは。
「良いのか?君がそう言ってくれるのは嬉しいが、負担にはならないか?」
首を2回左右に振った七瀬ははっきりと彼に自分の考えを伝えた。
「朝霧と戦った時の何十倍も不安なんです。だからそんな事考える暇がないぐらい…あなたで私をいっぱいにしてください……」
「……承知した。では七瀬、こちらからも君に頼む」
“俺の体も心も思考も……七瀬で埋め尽くしてくれ”
時刻はもうすぐ午前0時。
2人の濃密な愛のやりとりが始まった ———