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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎


2人の顔がゆっくり離れると、今度は彼から彼女へ口付けが贈られる。
ちう、ちう、と2回啄む音を響かせ、杏寿郎は七瀬から顔を離す。

「この先も君に触れたくて堪らないと言うのが本音だ。しかし明日は七瀬にとって非常に重要な一戦になるのは間違いない。故に負担はかけたくない」

「お気遣いありがとうございます」

2人の心に流れるのは互いを思いやると言う、愛する者同士なら自然に浮かび上がる気持ちだ。


「1つ、君に頼みがある」
「何でしょう……」


疑問符が脳内にふつふつと浮かび出した七瀬の左頬に杏寿郎の右手がそうっと当てられ、ふわっと撫でる。

日輪の双眸には静かだが、力強い炎(ほむら)がゆらりゆらりと浮かび上がっていた。
その瞳を目にした七瀬は心が底辺からあたたまるような、そんな感覚に包まれる。


「桐谷くんが君にとってどれだけ存在が大きいかは重々把握している。故に力がいつも以上に入るだろう。何としても自分が ——— そう思ってしまうのも仕方のない事だと言うのは理解しているつもりだ」


図星だった。
何としても自分が討ち取る。この鹿島任務が決定して以降、七瀬が常に考えていた事だったからだ。


「しかしだ、決して1人で戦おうとするな。彼を殺されて悔しく、そしてもどかしい思いを抱えているのは君だけではない。俺も竈門少年も、我妻少年も栗花落少女も……皆(みな)心に感じている事だ」


「はい………」

「君には仲間がいる。俺もいる。1人では困難な事も2人、3人と同じ志を持つ者の力を合わせれば乗り越える確率は格段に上がる。だから……」


「難しいと判断した時は、それをきちんと周りに知らせてくれ。察する事は出来るがそれも完璧ではない。やはり君自身の言葉や態度で示してくれねば正しく伝わらないし、こちらも正しく受け取る事が出来ないからな」

「正しく……」
「うむ」

七瀬の両目から流れていた涙を杏寿郎は2つの親指で拭い、そこに触れるだけの口付けを落とした。

「覚えておけ、七瀬。君は1人ではない。それは今もこれからもその先も —— ずっと変わる事はない」



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