第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎
「時に七瀬、君は水の呼吸ではどの型が得意なのだ?」
「え、水の呼吸ですか?」
「そうだ」
「うーん。炎の呼吸に比べるとそんなに得意不得意が顕著に分かれるって事はないんですよね。自分に合ってるのか、割とやりやすい型ばかりなんです。強いて言うなら……」
七瀬はここである人物の顔が2つ思い浮かぶ。
兄弟子の義勇と弟弟子の炭治郎だ。
2人の得意とする型は肆ノ型の”打ち潮”
そう —— 七瀬の得意とする型も打ち潮なのだ。
『何となくこれを伝えるのは良くない気がする。けど、私嘘つくの苦手だしなあ……』
うーんと一度唸った彼女は正直に肆ノ型だと伝える。
「そうか」
「はい……」 『あれ?反応なし?』
七瀬はあっけに取られた……が。
「…今回の任務が終わったら、壱ノ型と伍ノ型の強化をする」
「え、勘弁して下さい……不知火はまだしも、炎虎は苦手の部類なんですよ、私」
「君と俺は同じ呼吸を使うが、互いの得意苦手とする型は対照的だ。その最たる物が伍ノ型」
「そうです、杏寿郎さんの言う通り」
うんうん、と頷く七瀬は彼の背中をぽんぽんと同じ拍動で右手を当てた。
「俺も君と得意な型を共有したい」
「共有、ですか?」
まさかそんな事を言われるとは。
七瀬はしばしの間、思考が停止してしまう。
「そうだ………察してくれ」
“察してくれ”
この言葉で七瀬は全てを悟る。
途端にふふっと笑顔になり、この人はやはりかわいい。その思いが広がっていった。
「杏寿郎さん。そう言うの何て言うか知ってますか?」
「無論!」
“公私混合”
2人の声がぴったりと重なった後、彼女は杏寿郎から体を離す代わりに彼の頬を両手で包みこんだ。
そこには珍しく顔を少し赤くした杏寿郎がいる。
「いつも凛々しくてかっこいい杏寿郎さんも大好きですけど、私の前だと少しだけかわいくなる杏寿郎さんはもっと大好きです……」
ちう、と彼女から彼へ。
小さくかわいい口付けが贈られた。