第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎
「あの、七瀬さん、持っているってどのような意味なのでしょうか?」
「あ、それね。最近巷で流行っている言い方で……」
七瀬の話に2人はふむ、ふむと頷きながら聞いてくれる。
「……いつだったか、塩大福が売り切れで買えなかった時あったじゃない?でも間を置かずに目当ての物を譲ってもらえたでしょう?」
「ありましたね。あまりにも頃合いが良くて本当に驚きました」
思い出したのか、千寿郎はふふっと唇に弧を描いて破顔した。
「そう言うのを持っているって言うんだって。去年は33年に一度の年で本当にたくさんの流れ星が見れたけど、今年もあの時に匹敵するぐらい多いもん。千寿郎くんの名前の数と同じくらい流れるのは間違いないんじゃないかなあ」
2人が話している間にも夜空を彩る流星達は、次々と光を見せては消えていく。キラっと点が輝いた……と思う間もなく、星達は一瞬の間にその短すぎる一生を終える。
それはどこか人の人生とも重なる部分があるなあ、と七瀬は少しだけ心が切なくもなっていた。
「俺、本当に嬉しいです!兄上も早く帰宅されると良いのですが……」
千寿郎の声が彼女の刹那をふわっと心から流してくれる。
ありがたさを感じる七瀬だ。
「今日は見回りだけだからもう帰って来てもおかしくないんだけど、何か予定外の事でもあったのかもね」
「鬼殺はそう言う物…と言ってしまえばそうなのだが、今日ばかりはそれが恨めしくなる夜だな」
「そうですねぇ……」
3人がしばし流星が舞う夜空を堪能していると、廊下の左奥から帰宅を知らせる低い声が届いた。
「遅くなりましたが、ただいま戻りました!」
去年と同じくらい流れてないか?……とやや興奮気味に夜空を指差しながら縁側にやって来たのは、槇寿郎・千寿郎・七瀬が今の今まで帰宅を熱望していた杏寿郎である。
「お帰り」
「お帰りなさい、兄上も早くこちらに!」
「お帰りなさい。待ってましたよ!丁度同じ事をお2人と話していました」
そうか……と更に興奮した様子を見せる杏寿郎は千寿郎と七瀬の間にストン、と腰を下ろして夜空を見上げた。