第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎
「…………」
「…………」
七瀬の焦茶色の双眸には日輪の瞳が、そして杏寿郎の日輪の双眸には焦茶色の瞳がうつっている。
互いのそれを確認した2人はどちらからともなく、再度近づき口付けを開始した。
唇同士から透明な雫がつつ……とこぼれ落ちた時、七瀬の下腹部と杏寿郎の下腹部はじわっとあたたかく —— いや、熱いぐらいの温度がそこを支配していた。
「七瀬……本当に申し訳ないのだが」
杏寿郎は右手を恋人の腰に回し、左手で彼女の右頬を包み込んだ。
ふっと笑みをこぼした七瀬は両の瞳を閉じて、彼にこう伝える。
「腰は本当に辛いんですけど、それでも繋がりたいんです。あなたと」
「……ありがとう」
再び2人は口付けを交わし合う。
朝稽古までやや急ぎ足で2回体を繋げ、その後は通常通りの工程をこなした。
………七瀬の腰が悲鳴を上げたのは言うまでもないが、鬼殺は待ってくれない。
——— その日の夜21時半。
七瀬はくたくたになりながらも任務を終え、煉獄邸に帰宅した。
湯浴みをゆっくり済ませて疲労を回復させた彼女は明日から鹿島神宮に迎かう為、その荷造りをしている。
「よし、こんなもんかな」
ふと衣紋掛けにかけてある、羽織に視線をやった。
『完成して良かった……』
じわっと目から涙が出るのをグッと堪え、防寒用の羽織を寝間着の上に重ねてはおると襖を開け、部屋の前の縁側に向かう。
「うん、今日は当たり日だね!やっぱり千寿郎くんは持ってるよ」
「持っている、ですか?」
そこには槇寿郎と千寿郎が2人で隣り合って座っていた。七瀬は千寿郎の右横に腰をおろし、夜空を見上げると彼にそう告げたのだ。
「夏の流星群の時より遥かに流れる数が多いな……これは観る価値が確かにある」
そのまた横で顎に手をやり、ううむ……と唸っているのは槇寿郎。
そう、これは夏にみんなで観測しようと約束した”しし座流星群”だ。