第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎
炎虎 対 炎虎。
その軍配はやはり得意とする杏寿郎に上がり、猛々しい紅蓮の虎は柔軟な紅蓮の虎を瞬く間に飲み込んでいく。
しかし、この日の七瀬は違った。
「弐ノ型 —— 昇り炎天」
「参ノ型 —— 気炎万象」
虎が喰われる事を見越していた彼女は弐ノ型・参ノ型の連撃を仕掛ける。
炎輪(えんりん)の軌道を鮮やかに描いた木刀は、立て続けに炎の残り火と共に上段から振り下ろされた。
継子が今まで見せた事がない流れの3連撃に、杏寿郎はやや驚きの表情を見せるがそれは一瞬のみ。
「肆ノ型 —— 」
彼の木刀から放たれたのは渦状の炎。そして……
「盛炎のうねり!」
「漆ノ型 —— 紅蓮業火」
師範の怒涛の連撃が継子を襲った。
——— 10分後。
「やっぱり杏寿郎さんは強いです………」
地面に仰向けになっている七瀬は右手で自分の顔を覆い、のろのろと体を起こした。
彼女が持っていた木刀は木っ端微塵に砕け散り、両腕には強烈な痺れが残っている。
「師匠が弟子に簡単に負けるわけにはいかないからな!」
ほら.......と七瀬の両腕をそっと掴んだ彼は、ゆっくり彼女を立たせてくれた。
『この言葉を聞くのは何度目なんだろう』
七瀬は杏寿郎と視線を合わせると、苦笑いのようなそうでないような複雑な表情を形成する。
「とは言え、3連撃は驚いた!見事だったぞ」
よしよし、と頭を撫でられた彼女は途端に破顔してしまう。
「明日にはもう伊勢に向かうんですよね。私、今日非番なので杏寿郎さんのお部屋で待ってて良いですか?」
「ああ、そうして貰えると嬉しい」
この夜2人はお互いの体を繋げた後、いつかと同じように遅めの湯浴みをし、朝まで共に体をぴったりくっつけて就寝をした。