第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎
今日は気持ちの良い秋晴れだ。
やや肌寒くもあるが、稽古後の火照った体にはちょうど良い。
煉獄邸の縁側に座り、お茶を飲んでいた七瀬、炭治郎、善逸、伊之助。
杏寿郎は引き続き、千寿郎と地稽古をしている。
善逸と伊之助が七瀬と炭治郎の右横でいよいよ取っ組み合いの喧嘩を始めた中、彼女は左横に座っている弟弟子と話していた。
「七瀬?大丈夫か?」
「うん……何とか」
「将門塚の時もそうだったけど、何か俺達大事な行事に呼ばれる事多いよな?」
「そうだねぇ」
「……………」 「…………… 」
重要な一件を前に緊張し始め、口数が少なくなる2人に対して善逸・伊之助の争いは益々白熱して行く ——— が。
「猪頭少年!君にはお館様より特別任務が指示されているぞ!」
弟との稽古がひと段落した杏寿郎は、伊之助にそう声をかけた。
“特別任務”
この言葉に負けず嫌いの伊之助が即座に反応する。
「おい、ギョロギョロ目ん玉!それを早く言えよ!わはははー!さすが俺だな!」
善逸の道着の両襟をキツく掴んでいた手をパッと離した彼は腰に両手を当て、ふんぞり返って高笑いを始めた。
「うわっ急に手、離すな!バカッ!!」
「善逸!!」
「危ない!」
衣服を離され、ドン!と胸を押された善逸はと言うと……
これまた素早く反応した七瀬と炭治郎によって背中を受け止められた為、転倒は免れた。
「炭治郎!七瀬ちゃん!ありがとぅぅーー!!」
くるっと背中を向け、2人に抱きつく善逸。
——— 5分後。地稽古が終わった杏寿郎と千寿郎も交え、6人は先程の話の続きをしている。
「猪頭少年には草薙剣(くさなぎのつるぎ)—— 3種の神器の内、3つ目だな。これを三重の伊勢神宮より借り受けて来るようにとの事!大変貴重な品故、俺も同行せよとのお達しだ。剣、鏡、そして奪われた勾玉…3つの神器を鹿島神宮に集め、100年間保存する。これは “三柱鎮座祀る”(さんばしらちんざまつる)そう言われているらしい」
「以上が、今回の任務の全容だ。各自何か質問はあるか?」
全てを説明した杏寿郎は、ぐるっと部下達を見回しながらそう問いかけた。