第60章 茜が沈む、緋(あけ)が昇る ✴︎✴︎
「そうだね」
「…………」
「…………」
耀哉の同意を最後にしばらく3人の間を包むのは静寂だ。
「銅鏡…八咫の鏡(やたのかがみ)を鹿島神宮に持参する隊士は七瀬以外に考えられないのでしょうか?」
静かな物になっていた空間に音を与えたのは杏寿郎の凛とする声色。
「はい、今年は将門塚再建と八咫の鏡の返却が同時に重なる400年に一度の年なのです。鏡を返却する隊士は将門塚に12鬼月の頸を献上した者……そう古文書に書かれていました」
杏寿郎の質問に応えたのはあまねであった。
「杏寿郎が気になるのも無理はないよね。七瀬は君にとって、とても大事な子だ」
「………お館様。鹿島神宮は私も —— 」
杏寿郎がそう言葉を発そうとした途端。
「うん、もちろん一緒に行ってあげて欲しい。そのお願いもしようと思ったからここに来てもらったんだよ」
「ありがとうございます」
耀哉が”そう言うと思っていた”と言葉尻に付け加え、伝える。
するとやや安心した表情を見せる杏寿郎だ。
「七瀬を誘い出そうとしているのは、巧を殺した鬼だと私はほぼ確信している。先日甲に昇格したとは言え、まだまだ精神面が不十分だろう?そのあたりの導きも含めて、師である杏寿郎に今回の鹿島行きをお願いしたいんだ」
「 ——かしこまりました。してお館様、今回私と七瀬以外に鹿島に向かう者とは…?」
「うん。炭治郎に禰󠄀豆子にカナヲに………」
「はあん?何で俺じゃなくて、紋逸なんだよっ???どう考えても俺だろーがっっ!!」
その日の合同稽古終了時。
鬼殺隊本部から戻った杏寿郎は七瀬と共に鹿島神宮に向かう隊士の詳細を伝えたのだが…
“うん。炭治郎に禰󠄀豆子にカナヲに……それから、善逸だね”
耀哉はそう杏寿郎に告げたのだ。
「だーかーら、お館様の采配なんだよ!いってぇ!髪引っ張んな!こんのバカ猪!」
憤慨した伊之助に髪を引っ張られ、顔をひっかかれ、先程から散々な目に遭っているのは善逸である。