第59章 2人の炎をあたためて ✳︎✳︎

「他はもう消えたんですけど、ここだけは残ってて……彼女の術が1番集中していた場所だからかもしれません」

恋人が改めてそこに目線を向けたので、自分もそれに倣って鬱血痕に目をやる。

「……あの時、引きちぎられていたかもしれないんですよね。改めて良かったです、無くならなくて……」

「…………」

「これが出来ないのが私には1番堪えますから」

そして ——— 両頬に七瀬のあたたかい掌が当てられ、一度撫でられる。鼓動がトン……と心地よく跳ねた。

「あなたにここまで近づけるのは私だけなんだ…そう自惚れても良いですか？」

「これは自惚れる事なのか？」


「杏寿郎さんに近づきたい女の人って本当にたくさんいるんですよ。さっき私に自覚するようにって言われてましたけど…それはあなたにもあてはまります。もう少しご自分の魅力を自覚して下さい」

「う……む」
そうは言われても、と言うのが正直な気持ちなのだが。

「だから今私がいるこの位置は貴重なんです。杏寿郎さんの隣…ここは本当に価値がある場所なんですよ」

目を瞑った恋人が触れるだけの口付けを自分にくれると、跳ねた鼓動の隙間に広がるのはただただ七瀬が愛おしい。
その気持ちだけだ。


「光栄だな。そこまで思って貰えてるとは」

自分の好きな人が自分を好きでいてくれる。 以前彼女が言っていたようにこれはとても貴重で、大切にしなければいけない物なのだろう。



「愛しています。杏寿郎さん……」

再び、ドクンと跳ね上がる鼓動。恋仲になって初めて言われた言葉だ。そして恋人がまた触れるだけの口付けをくれる。

顔が離れる —— その瞬間、俺は自分の唇で七瀬の唇を塞いでいた。



「君はどうしていつも俺の言いたい事を先に言うんだ？」
「えっ………」

今度は自分の両手で恋人の柔らかな頬をそっと包み込む。目の前の焦茶色の双眸には戸惑った様子の感情が浮かんでいる。




「七瀬、俺も君を愛している。心から」


“愛している”

——— 先程の七瀬同様、これは恋仲になって初めて俺が彼女に贈る言葉だ。