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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第58章 緋色の合図、茜色のサイン、2人のeyes


猪頭からプシューと鼻息が荒く出る。

「ああ、これ?」
しまった、落とすの忘れてた。さて、何て伝えよう……。

「魔除けの赤だよ。伊之助聞いた事ない?」
「何だ、それ?美味いのか?」

…………被り物で表情は見えないけど、きっと彼の双眸はキラキラと輝いているのだろう。




「うん、甘くて美味しいんだよ」






伊之助、ごめんよ。
つい冗談を言ってしまった………。
しかし、これが後に”嘘から出たまこと”になる事をこの時の私は知る由もない。






「ただいま帰りましたー……」

門扉をくぐり、玄関の鍵を開錠した私はカラカラ…と扉を開けて煉獄邸に入る。
杏寿郎さんの草履はまだない。日輪刀を脱刀して、上りかまちに腰掛けて草履を脱ぐと自分の部屋に向かった。


「よし、終わり」

本日の討伐報告書を記入し終わった後は小町に渡して、鬼殺隊本部に届けてもらった。
部屋の掛け時計を見ると、ちょうど日付が変わろうとしている。
湯浴みして早く寝なきゃ……。明日も朝から稽古がある。襖を開けよう——手をかけようとした瞬間、目の前の襖が開いた先にいたのは杏寿郎さんだった。


「お帰りなさい!ご無事のお戻り何よりでした」

彼の頭の先から足先まで怪我がない事を確認した私はいつも通り、ぎゅっと抱きつく。

「ただいま、七瀬。君も怪我はないようだな」
背中に彼の両腕がまわり、ぽんぽんと優しく叩いてくれた。

「はい、大丈夫です。姿を隠すのが上手い鬼でしたけど、伊之助と共闘して討伐出来ました」

「そうか」
左頬を大きな手で撫でられると、甘い音が鼓動と一緒に跳ねる。
杏寿郎さんの双眸に柔らかさが表出していた。

彼がこう言う眼差しをしている時は、私と一緒に過ごしたいと言う合図なのだけど……。

「あの、湯浴みに行こうかと思っているんですが」
「だろうな!手拭いと着替えを持っているからな」

「…………」
「…………」

襖を後ろ手に閉め、私の部屋に入って来る彼。

「杏寿郎さん……?」
「目張りはもう落としてしまったのか」

「はい、任務もありましたし…。あ、でも」
「ん?……」

左瞼に触れていた彼の右掌がそのまま私の頬へと下がる。

「これは落とすの忘れちゃって。そのまま行っちゃいました……」
「む……と言う事は君の爪紅を猪頭少年は見たのか」

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