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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第58章 緋色の合図、茜色のサイン、2人のeyes


海老で鯛を釣る、棚からぼたもち。思いがけない幸運がやって来ることわざ。
これら2つが脳内を全速力で駆け巡った。


杏寿郎さんが私を連れて来たかった場所—それは上野黒門町にある東京文明堂だった。カステラの総本山と言って良い場所だ。
お忘れの方も多いかもしれないけど、私の大好物はカステラ。
夢の中に出てくるぐらい愛して愛してやまない甘味である。



「七瀬?どうした、呆けてるのか?」
ポカン、と口を開けた私を左横から覗き込む彼は不思議そうな表情でこちらを見ている。

「あ、すみません。想定外の場所だったので、思考がちょっとだけあさっての方向に向かってました」

「想定外?カステラは君の好物だろう」

「ええ。だから嬉しい想定外です」

私は彼に笑顔を向けながら、繋がれた左手をきゅっと繋ぎ直す。


「感激しちゃって。言葉を発するのも忘れてました」

「そうか。であれば連れて来た甲斐があったな」

杏寿郎さんはお店の暖簾をくぐりながら横開きの扉をガラガラ…と開けてくれた。








「お待たせしました。抹茶カステラ巻きとはちみつカステラ巻きにございます」

親子連れ、恋人同士で賑わう店内。席について注文をした私達の前にやって来たのは緑の生地と黄色の生地の甘味だ。


「ごゆっくりどうぞ」

品が良い石竹色(せきちくいろ=薄いピンク)の小袖を着た店員さんが綺麗な笑顔で給仕してくれ、恭しく頭を下げる所作に目を奪われる。
素敵な同性を見ると、背筋が伸びる気持ちになる。


杏寿郎さんは抹茶を、私ははちみつを注文した。カステラ巻きとは食べやすい大きさに切ったカステラを、焼き立ての柔らかいどらやき生地で周囲をくるっと巻いてある甘味で、見た目がとてもかわいい。
いただきます、と挨拶をしてカステラを一口含む。


「んっ……どらやき生地とカステラって合うんですね。口の中で混ざる食感が心地よいです。はちみつ、かなり甘いですけど、後味はすっきりとしていますよ。杏寿郎さんの抹茶はどう……」

ですか?……と私が口に出すのと同時に響くのはもちろんあの3文字だ。



「美味い!!!!美味い!!!」

その瞬間、店内が大きく揺れる。居合わせたお客さん達のびっくりした声も、前で横で後ろで……といつものように賑やかに聞こえた。

「ああ、すまん、抹茶か?」
「はい……」



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