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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第58章 緋色の合図、茜色のサイン、2人のeyes


「曙色が良いのではないか?」


私は浅緋(あさあけ)、曙…と唇に乗せる紅の色で迷っていたのだけど、恋人のこの一言で曙色を塗る事にした。

彼の視線を強く感じる。

速くなった胸の鼓動を心地よく感じながら、アルミ型の丸い容器に入っている紅を紅筆に適量つける。
姿見を確認しながら、上唇の口角から中央に向かって丁寧に乗せていき、下唇も同様に。
塗り終わった後はちり紙で余分な油分を落として、紅道具を片付ける。

「どうでしょう…」
右横にいる杏寿郎さんの方をゆっくり向けば、大きな目を少しだけ開いた後に笑顔を見せてくれた。

「秋の曙も綺麗だ」
「んっ……」

優しく顎を取られると、私の唇に彼の温かいそれがゆっくり重なる。


「もう……せっかく塗ったのに。またやり直しですよ」
「すまん!よく似合っていたからつい……」

じと……と杏寿郎さんにやや恨めしい視線を送った後、もう一度曙色を塗り直してちり紙で調整。


「出来ましたよ」
財布と化粧直し用の道具を巾着袋に入れた私は座布団から立ち上がる。


「七瀬、部屋を出る前にもう一度手を見せてくれ」
「あ、はい……」

巾着袋を左手首にかけ、先程彼に塗ってもらった茜色の指先を再度見せると、恋人は目を細めて満足そうな表情を浮かべた。

「うむ!やはり今日はいつもより上手く塗れた!」
「ありがとうございます……」


「茜色は君の色だからな」
ほら……と差し出された彼の右手を左手で握るとゆっくりと絡められる。



今日の杏寿郎さんは黒い組紐で長い髪を頭の上で一つ結び。この組紐は将門塚再建時に使用した物と同じ。
紺色の落ち着いた着物は相変わらず彼の目立つ容姿を引き締めて見せてくれる。

『今日も女性陣の視線、凄いんだろうなあ』

「どうした」

「いえ……杏寿郎さんはやっぱり素敵だなあって思ってたんです。何度も言いますけど、本当に自分にはもったいないなあって」

「ありがとう。しかし七瀬、今日の君は……」





“外に連れ出したくないくらい、麗しいぞ”

「……………っ!!」

色っぽい低音と共に私の左耳に届いたのは、恋人からの最高の褒め言葉だった。






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