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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第58章 緋色の合図、茜色のサイン、2人のeyes


「爪紅の時もそうでしたけど……七瀬さんは本当に炎柱様の事が好きなんですね」

どうぞ、とお湯に浸した手拭いを渡してくれる沙希にお礼を言い、私は瞼に乗せた3色を丁寧に拭き落とした。


「柱の休息って貴重なひと時じゃない?彼にとって大事な時間だよ。そんな時間を私の為に確保してくれるんだから、当日の朝何色にするか迷う時間がもったいないなあって思って……」

「わかりますよ。好きな人が自分の為に確保してくれる事って当たり前じゃないですから」



「恋人には少しでも綺麗な自分を見てもらいたい。杏寿郎さんは本当に大人だから、色々背伸びしてでも横に並びたいの。階級はようやく横並びになったけど、人間力と言う意味ではね……」

「炎柱様、本当に成熟してますもんね。心が」




未熟な継子の私と、成熟した師範の彼。
釣り合いと言う意味で言えばちょうど良いとは思う。



どうせなら心も甲(きのえ)に近づきたいな。
心の成熟度に階級なんて物があるとするなら、自分は一体どの位置に立っているのだろうか。
せめて真ん中の戊(つちのえ)ぐらいになってると良いのだけど。


沙希と宿舎近くの食事処で昼食を済ませ、またねと挨拶を交わした後は煉獄邸に戻る。

杏寿郎さんと出かける日は来週の火曜日になった。
今日は木曜日だ。後5日か…。目張りの色は決まった。爪紅の色も決まった。着物の色は身につけるだけで元気になれるあの色。
香油も髪につけて行こう。いつも就寝前しか使用してなかったから、たまには出かける時にも使わなきゃ。










———そして火曜日。

朝稽古、湯浴み、朝食を済ませた私は自分の部屋で姿見と向き合っていた。
着物は彼と初めて出かけた時に着た橙色。手首には将門塚再建(さいこん)の時に着けた赤い組紐。髪には香油。

瞼には杏寿郎さんから貰った黄色、桃色、茶色の目張り。
粉おしろいはほんのりと薄づけ。足袋の下には10個の茜色。爪紅はこの後、彼が私の部屋にやって来るので塗ってもらうとして……。

「紅はどうしよう」
やっぱり暖色系かなあ。紅筆を持ちながらうんうん唸っていると、襖の外から杏寿郎さんの声だ。


「七瀬?入っても良いか?髪を結んでほしいのだが」
「あ、はい!どうぞ」

襖が開くと黒い組紐を右手に持ち、紺色の着物を着た恋人が立っていた。
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