第10章 師範と継子 +
さっき一通り終わったと思ったのに、また稽古をしないといけないらしい。
しかも手合わせと地稽古………一体どこまでやらされるのか。
「千寿郎も一緒にやるか?」
私の隣で体をもじもじさせていた千寿郎くんは師範に声をかけられるとパァッと顔を輝かせた。
「はい!」と頷いた彼に癒された私は急いで6人分の木刀を取りに行く。
手合わせの相手は伊之助だった。彼はあの猪の被り物を被ってるので、目線から次の動きを予測する事が出来ず、本当に手こずった。
おまけに二刀流だし、悪戦苦闘した。
「どうした、沢渡!! もうバテたか!」
「………!はあっ、まだ……ま……」
地稽古もこれでもかと言うぐらい攻められて、受けるので精一杯。伊之助との手合わせの疲れもあって、いつも以上にバテバテになった。
「はあ、ありが、とう……ござい、ました……」
互いに一礼をし、顔を上げた所でようやく緊張が解けて笑う事が出来た。疲れた……!
「師範は本当に容赦ないですよね」
「遠慮などしていたら、稽古にならんからな!!」
師範の体力の底って一体どこなんだろう?もう、流石柱!!としか言えない。
「師範?どうしました?」
珍しく逡巡している様子の彼に声をかけると、残暑の太陽から受ける光を振り払うように、師範は私達みんなに声をかけて来る。
「いや、何でもない。そろそろ昼餉の時間になるな。今日はこれで終いにしよう!」
「やったあー!ようやく焼き芋だよ……っておい!バカ猪、横取りすんな!!」
「ふははは!こんな美味い焼き芋は初めてだぜ!」
「善逸!伊之助!食べながら立ち上がるのは行儀が悪いぞ!」
ふふ、三人のやりとりを見るといつも笑っちゃう。こんな瞬間が愛おしい。
それから気づいてしまった。
私は師範の事が好き。
ねえ、巧。良いかなあ?このまま彼を好きになっても……。