第10章 師範と継子 +
「沢渡、少し良いか?」
「あ、はーい。どうぞ……」
師範、どうしたんだろう。
疑問符がたくさん脳内をひしめき合う中、返事をすると静かに襖が開いた。
どうやら手紙 —— 果たし状が一部廊下に落ちていたから、届けにやって来てくれたみたい。
わあ、助かった。ほっと息をつくと、彼の顔には疑問符が浮かんでいる。あ、ちゃんと説明しなきゃね。
「ありがとうございます、この人は特にしつこい性質なんです。だから優先的に対応しないといけないので、助かりました」
「よもや、全員に返事しているのか?」
「いえ、それは物理的に難しいので……この方のようにどうしても手合わせしたいのかな?って感じた物を中心に返事をしています」
「む?それは何だ?」
「あ、師範にはお話しておきますね」
文机の右横に置いてある和綴じの冊子。
表紙に”呼吸の記録帳”と記した日々の日記のような物だ。
「炎の呼吸は指南書が三冊あるから、どうしようかなあとも考えたんですけど……まずは自分の記録としても残しておこうかなって」
はい、と冊子を渡すと、早速目を通す師範。少し恥ずかしいけど彼なら見られても良いかな。
師範が開いた頁は、壱ノ型と弍ノ型について自分が感じた事が記してある。
「炭治郎が鱗滝さんの元で修行をしていた時、日記をつけていたんです。だから書いておくのも良いなあと」
「確かに彼は筆まめだな!俺にもよく手紙をくれる」
「炭治郎は師範の事を物凄く尊敬しているんです。あ、これは私もですけど」
「ありがとう、光栄な事だ!」
それから私達は「任務に遅れてしまいます!」と指摘するまで、二人で話し込んだ。
やっぱり師範と話すの、凄く楽しい。時間があっと言う間だもん。
「いってらっしゃい、師範!お気をつけて」
「君もな!」
門扉で声をかけあい、互いに違う方向へと歩き出す。少し歩いた所で振り向くと、炎柱の羽織が風に揺られてふわっと靡いた。
——無事に帰って来て下さい。私も必ず戻ります。
日輪刀の柄を左手でグッと握り、右足をまた一歩踏み出し、討伐先に向かった。