第58章 緋色の合図、茜色のサイン、2人のeyes
私の掌に乗っている物……それは茜色の爪紅。
緋色は杏寿郎さんの刀身の色。この色の爪紅は持っているので、どうせなら自分の刀身の色の爪紅も欲しいなあと以前から思っていたのだ。
「今度塗ってくれますか?」
「無論。断る理由がない」
“勘定をして来る”と言った彼は私の掌から爪紅の容器をスッと取って店員さんの元に行ってしまった。
ぐるっと見回すと、私の周囲には化粧品や装飾品がずらっと並んでいる。
粉おしろいはまだあるし、紅も大丈夫。香油は杏寿郎さんから貰った物があるから……
「七瀬、待たせたな」
後ろから声が響いたかと思うと、頭頂部にポンと大きな右手が乗せられ、私の右手には爪紅の容器がのせられた。
「ありがとうございます。本当に楽しみです!これ塗ってもらうの」
「俺もだ」
それから夜の任務の準備の為、煉獄邸に私達は帰宅した。
隊服に着替え終わり、足袋を履こう。
そう思った矢先に彼に買って貰った茜色が目に入って来る。
………最近足にも爪紅を塗る人がいるって沙希が言っていた。私も塗ってみようかな。そんな事をふと思う。
“見えない所のおしゃれって結構重要ですよ”
後輩の言葉が脳内に反芻する。
よし、物は試しだ! 文机に置いてある爪紅を手に取り、私は足の指に茜色をのせ始めた。
——10分後。両足の爪に塗り終えた。手に塗るより綺麗に塗れた気がするから何だか嬉しい。
考えてみれば、足の爪は利き腕で全部塗れるのだからそれも大きいかな。
茜色はなかなか大人っぽい色だ。だから少しドキドキしてしまう。
その上から足袋をはくと当然何も見えなくなる。
なるほど、沙希の言う意味が理解できたかも……。視界に入らないけど、心地よい緊張感がある。”見えない所のおしゃれが大事”と言うのはきっとこの感覚の事なんだろう。
今夜はその沙希との合同任務だ。終わったら報告しよう。そう決めて、私は待ち合わせ場所へと向かった。