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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第57章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎


「これ、太陽みたいでしょ。あなた達鬼が最も苦手とする」

朝霧を迷いなく見ている4つの双眸がそこにある。
2つは焦茶色。後もう2つは自分の周囲を囲う炎輪(えんりん)と同じ色。


ドクン、と彼女の心臓が大きく跳ねる。逃げなくては。本能がそんな危機感を訴えてくる。炎の輪が段々縮んで来ているからだ。

「…えっ?」
いつもなら、ここで姿をくらます霧を発動する力が掌に湧き上がるはずなのに。
朝霧の右手からは何も反応がない。


「ここより北東——丑寅の方角から君は侵入して来ただろう。そこを冨岡と竈門少年に塞いでもらった。故にもう逃れる事は出来ない」

「そんな……ウソでしょ……」
女の鬼は何度も何度も術の発動を試みるが、変わらず右掌からは反応がない。


「私はまだまだ師範と共に鍛錬したいし、強くもなりたい。それに大好きな人をこれからも抱きしめたいの。何度でも」


タン……と七瀬が右足で地を蹴り、炎の輪を飛び越えて刀を構える。

「陸ノ型 ——— 心炎突輪」

左手の照準を朝霧の左耳に合わせ、右手に持っている日輪刀を一旦後ろに引く。そして曙の目を正確に衝いた。

ジワ……と突き刺した右目から血が滴り落ちる。
七瀬が刀をスッと抜き、後ろに下がった。すると入れ替わるように朝霧の目の前に現れたのは杏寿郎だ。



「継子の太刀、そして恋人の掌(たなごころ)を奪おうとした行いを俺は決して許す事は出来ない」


“壱ノ型—— 不知火”

それは鮮やかな緋色の横一閃。
朝霧の頸がスパン……と真横に斬れた後、地面を2回程跳ねてゴロゴロと回転して止まった。

“斬られた?頸を………”

女の鬼の左目から見えているのは草履を履いた2つの足。それが小走りで近づいて来たと思うと、2つの暖かなぬくもりが鬼を包んだ。そして石室内に入って行く。


「あなたも鬼になって色々な思いをして来たんだと思う。それは何となくわかった。でもやって来た事は見逃せない」

「将門公、どうぞお収め下さい」

塚の前に着いた彼女はその中心にゆっくりと朝霧の頸を置いた。
既に顔の下半分が粒子となっていた頸は、最後に命を燃やし尽くすようにボウッ……と炎に包まれて完全に消失した。


七瀬は深い息を一度すると、左手の甲に目線を落とす。
蠍座の焼き印は綺麗にそこから姿を消していた。

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