第57章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎
「は……あ……」
七瀬の首元、両腕、両足に巻き付いていた蛇が一気に緩む。瞬間、前方につんのめりそうになったが、咄嗟に両手を地面について転倒するのを避けた。
彼女は恐る恐る目を開けると両掌をゆっくりと数回開閉し、感覚がある事を確認すると心の底から安心する。
『良かった……痺れているけど、動く……!あ、杏寿郎さんは?』
右手を真横に伸ばすと、自分の日輪刀の鍔がコツンと当たった。
ごく自然な動作で七瀬は柄を掴み、目線を上げた先にいる杏寿郎の背中を捉えると小走りで近づいていく。
「くっ……手だけで動くのは…力いるわね…」
朝霧の双眸の先には裂けてしまった自分の下半身と炎柱、そして先程まで苦しんでいた継子の姿がある。
「……七瀬、動けるのか?」
「はい、何とか大丈夫ですよ。この通りです」
「良かった」
左掌を2度程開閉する七瀬を見て、杏寿郎は安堵の笑顔を見せた。
「あの状態だと再生するまでに時間かかりますよね。だったらこの機会かなと思うのですが…どうですか?杏寿郎さん」
「こちらも時間がややかかるのは同じだ。決行しよう」
『何……?何をしようとしてるの?』
朝霧の下半身は両大腿の先まで再生しているが、その先は失われたままである。
「朝霧、我らの”魔を斬る呼吸”にて君のその頸を頂く」
「壱ノ型・不知火」
「玖ノ型・奥義 —— 煉獄」
目の前の朝霧を真ん中にし、師範は左周りに。そして継子は右周りに動き始めると、互いに壱ノ型と玖ノ型の軌道を日輪刀で描いて行く。
「【壱ノ型・改 不知火・連】【弐ノ型・昇り炎天】【参ノ型・気炎万象】……」
「【捌ノ型・烈火の舞雲】【漆ノ型・紅蓮業火】【陸ノ型・改 心炎突輪・散】……」
七瀬の茜色の炎刀から放たれるは昇順の炎の型。
杏寿郎の緋色の炎刀から放たれるは降順の炎の型だ。
「【肆ノ型・盛炎のうねり】【伍ノ型・炎虎】」
「【陸ノ型・心炎突輪】【伍ノ型・改 炎虎・番】
互いが6つの型を放ち切ると、現れたのは12の型が紡いだ大きな炎輪(えんりん)である。
「はあっ!!やっと再生出来たわ!……って何……これ……」
両足の先まで元に戻り、驚愕する彼女の目に飛び込んで来たのは日暈(にちうん)のような光の輪だ。