第57章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎
「炎の呼吸・肆ノ型」
七瀬の眼前に大きく広がるのは周囲の空気を絡めとる赤い渦。
「盛炎のうねり」
杏寿郎の刀から放たれた炎の壁が蛇達を、ジュ…と焼き尽くしていく。
—— しかし。
「こんな事もできたりするのよねぇ」
朝霧は右掌を使って放たれた蛇の軌道を変える。すると、肆ノ型で取り込めなかった複数の蛇が七瀬の両足、両腕。
そして首元にギュッと巻き付いた。
「いッ…….」
首元の蛇が七瀬の首に鋭い牙を当てる。腕と脚に巻き付いている蛇の牙は隊服に塞がれたが、ならばと巻き付く力は強くなっていく。
“ねえ七瀬。本当は柱になりたいんでしょう?あんたは毎日毎日、炎柱との厳しい稽古をこなしてるじゃない。人間達は続ける事もよくするわよね? 継続は力なりだったかしら。よく頑張ってるじゃない”
七瀬が咬まれた首元から入って来たのは、朝霧の声。
“私、本当は努力する人間って好きなのよ。長く鬼をやってると色々な性質の人間を見て来たから、捻くれた物の見方をするようにもなるんだけど、基本はやっぱり頑張る子が好きなの”
“そんな人間の血と肉は、1番頑張っている部分..あんたは剣士だから腕よね。とっても美味しく味付けされるのよ。お願い、七瀬。私にあんたの腕をちょうだい。大切に隅々まで味わって食べるから”
七瀬の両腕に巻き付く力が更に強まっていく。すると右手に持っていた日輪刀が力無く滑り落ちた。
「もうちょっとで腕がちぎれるかしら。剣士にとって両腕が無くなるのは致命的だし、大好きな炎柱を抱きしめる事も出来なくなるわねぇ。絶望した顔を見るのがまた楽しみでたまらないわ」
「うっ……い……や」
苦しむ七瀬の体を容赦なく締め付けていく蛇達は、ますます力を強めていく。
「朝霧、君は本当に仕様のない鬼だな。数多くの悪鬼を見て来たが、これ程までに滅殺せねばならん思いが湧きあがったのは初めてだ」
“漆ノ型 ————紅蓮業火”
「な………え………」
朝霧の頭髪にこれまでにない程の熱量が駆け抜ける。するとボタ、ボタ、ボタ、と纏っていた蛇達が全て焼け落ち、彼女の胴も両断された。